「映画の面白さはもっと多様であってもいい」映画『ルート29』森井勇佑監督が語る、2本目の監督作品に込めた思いとは?
「ゼロからだと多分作れなかったキャラクター」 大沢一菜演じたハルと参考にした作品について
―――『こちらあみ子』の主演を務めた大沢さんは、今回もとても素晴らしかったです。ハルは、随所で地面に這いつくばるアクションを見せています。のり子とのファーストコンタクトもそうですし、犬に近づくところも、四つん這いで進んでいく。それも相まって、ハルは人間中心の世界において、ある種、自由な存在として描かれていると思いました。どういうキャラクターにしようと思われましたか? 「ハルは一菜の当て書きなんですよ。『あみ子』を撮った後に遊ぶ機会がちょこちょこあって。ハルのセリフは、公園で遊んでいる最中に彼女が言っていたことを拝借しているところもあって。頭の中で想像して、ゼロからだと多分作れなかったキャラクターだと思います」 ―――四つん這いのアクションは一緒に遊んでいる時に出てきたのでしょうし、セリフに関してもインスパイアされていると。 「そうですね。遊んでいる時は『この言葉を映画に取り入れよう』とは思ってないんですけど、脚本を書く時にふと思い出す。囚人ごっこのシーンにおける『お前ら囚人だ!』というセリフとか、そのまんま(笑)。急に公園でやりだしたんですよ。僕ら囚人役だったんですけど。ずっと公園を歩き回るみたいな時があって。それを思い出して書いたっていう感じでした」 ―――本作を観て、いくつかの日本映画が頭に浮かびました。渡辺美佐子さんがご出演されているということもあり、阪本順治監督の『顔』(2000)を想起する瞬間もありましたし、生き別れた母親を探す旅というテーマ、逸脱的なロードムービーという点で、北野武監督の『菊次郎の夏』(1999)も想起しました。今回、森井監督がイメージしていた作品はありましたか? 「飯岡さんに観てもらったのは、清水宏監督の『有りがたうさん』(1936)です。バスが一本道をずっと移動していく映画なんですけど、それを観てもらいました。ロケ地となった国道29号線の形状が、『有りがたうさん』の一本道と少し似ているので、『参考にしてみましょう』とご提案しました。 あとは、撮影の直前に、オタール・イオセリアーニ監督の作品を特集上映で観たので、勝手に影響を受けているかもしれません」 ―――イオセリアーニ監督の映画もロングショットが多いですよね。人物と同時に風景も豊かに画面に取り込んでいます。 「あと、映画ではありませんが、スタッフ内でイメージを共有していたのは、児童文学の挿絵なんです。例えば『不思議の国のアリス』の、アリスの首が長くなってしまった様子を描いた挿し絵や、エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』の挿絵。 それらを家の本棚から取り出してこっそり見た時に、ちょっと怖かったりする感覚。タッチが怖いんだけど、つい見てしまう、そのような感覚を映画で表現できないかという意識は、チーム全体で持っていました」 ―――最後に、これから本作を観る方にメッセージをお願いします。 「楽しんで観ていただきたいというのは前提として、現在はどこか“面白さ”というものが固定化されている気がしていて。映画の面白さは、もっと多様であってもいい。肩の力を抜いて観てもらって、『あれ、なんだろうこれ?』って咀嚼できないものに出会って、後でふと思い出す。そんな作品になっていたら嬉しいなと思います」 (取材・文:山田剛志)
山田剛志