「映画の面白さはもっと多様であってもいい」映画『ルート29』森井勇佑監督が語る、2本目の監督作品に込めた思いとは?
「“2”をどう撮るか」 シンメトリー・アシンメトリーをめぐる画面設計
―――修学旅行生たちは集団行動から外れることで、のり子を画面に呼び込む役割を果たしています。逸脱、あるいは脱線というテーマは、本作全体を貫いているものでもありますね。ところで、のり子が高良健吾さん演じる男と並んでタバコを吸うツーショットでは、高良さんのパンツの裾がロールアップされていますが、左右が非対称になっています。これは意図的でしょうか? 細かい部分ではありますが、シンメトリーとアシンメトリーというモチーフは、本作の画面のレイアウトを考える上で、非常に重要なのではないかと思ったんです。 「のり子とハル(大沢一菜)が、対称であると同時に非対称でもあって、そうしたモチーフは連想ゲームのように、色んなところで反映させたいという思いがありました。高良さんのパンツの裾に関しては、正直そこまで意識していなかったです(笑)。多分衣装さんがやってくれたんだと思います」 ―――このシーンで高良さんは、綾瀬さんと並ぶことで安定した構図を形成していますが、左右の裾の長さが異なることで、彼自身の中に均衡が取れてない部分がある、ということがさりげなく伝わるようになっています。 「そうですね。服装からしてみても、スーツとチョッキの取り合わせはバランスを欠いていますよね」 ―――このシーンに限らず、本作では登場人物の会話が息の長いフィックスのツーショットで撮られてます。こうしたショットは前作(『こちらあみ子』)でも見られましたが、今回の方が多いと思いました。どのような意図がありましたか? 「ツーショットに関しては意識的でした。『こちらあみ子』では、“1”ということを凄く考えていました。孤独になっていく少女が主人公ですから。彼女を映していくことで、観客と “2”の関係を形成できれば、という意図があったんです。で、”1”はやったから、次は”2”なんじゃないかっていう話は、企画段階で孫さんとしていて。 “2”をどう撮るかっていうのは、自分の中である種のチャレンジ。『あみ子』では、カメラを介することによって、主人公とお客さんの関係で“2”を作るということをやった。今回は、“2”の関係そのものをいかにして撮るか、というのがテーマでした」 ―――凄く面白いのは、のり子とハルという“2”の関係がずっと続くと思って観ていると、事あるごとに第3の人物が介入してくるという点です。 「そうなんですよね。結局“3”っていうのが多くなってくる。僕、2人がホテルの部屋でそれぞれのベッドにもたれて会話をする終盤のシーンが凄く好きなんです。 しばらく喋った後に、のり子のベッドにハルが移動して、カメラが引くと、構図の右側に誰もいないベッドがあり、左側に2人が座っているわけですけど、2人は主に、のり子の死んだ母親の話をしている。 このシーンを撮る時、現場で『3になってますね』みたいなことをスタッフと話していたのでした。“2”を撮ろうとして結局“3”を撮っている、というのは、自分でも面白いと思いました」 ―――中盤、のり子の姉・亜矢子(河井青葉)の家のシーンで、ハルはオセロをしていて、亜矢子はピアノを弾くわけですけど、白と黒(白鍵と黒鍵)の数が非対称です。また、饒舌な亜矢子に対して、のり子の言葉数は極端に少なく、セリフのレベルでも均衡がとれていない…ということも相まって、強く印象に残るシーンの1つです。どのようなことを考えて演出に臨まれましたか? 「河井さんはやってくれるだろうと、確固たる信頼があったので、お芝居に関しては基本お任せでやっていただきました。 このシーンは『やっぱり河井さんは凄いな』と思いながら撮っていて、カメラを切り返すと、無言で聞いている綾瀬さんの表情が複雑極まりなかったので、驚いたんです。シンプルなんだけど、奥で何が起こってるのか見えるようで見えない。この時の綾瀬さんの表情を見て『あ、いけるな』と思ったんです。自分の中でターニングポイントとなるシーンでした」