今年だけで10冊以上、「性教育本」が出版ブーム 背景にある教育への不安
性教育の国際的なスタンダード
冒頭に紹介したアクロストンのみさとさんは、著書で伝えたいことについてこう話す。 「“My body, My choice”(自分の体のことは自分で決める)ということです。それはつまり、“Your body, Your choice”なんですよね。自分のことも相手のことも尊重できるようになるのが、性教育のゴールの一つだと思っています」 こうした考え方のベースになっているのが、UNESCO(国連教育科学文化機関)が2009年に発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」だ。2018年の改訂版では、意図しない妊娠や性暴力のリスク、インターネットによる劣悪な性情報の氾濫によって、子どもや若者の健康と幸福(ウェルビーイング)が脅かされているとする。 ガイダンスが提唱する「セクシュアリティ教育」は、若い世代が家族や友人や恋人とよい関係を結び、知識に基づいた意思決定をすることを励まし、自尊感情を高めるように導くものだ。
今年次々に刊行された「性教育本」には、このガイダンスを参照しているものが多い。高橋さんはこう語る。 「今の『性教育本ブーム』を牽引する書き手は、『性教育が大事だ』と気づいた助産師さんだったり看護師さんだったりします。お子さんを持つお母さんであることも多い。そういった人たちが、小難しくならないようにガイダンスの要素を盛り込んだり、マンガにしてわかりやすくしたりするなど、工夫されています。そうした工夫が、『子どもに性のことをどうやって伝えよう』と悩む保護者や、『自分たちは性について学ぶ機会を奪われている』と思い始めた若い人たちに響いたのではないでしょうか」
すべての子どもたちに学ぶ機会を
アクロストンのたかおさんは、家庭での性教育で大事なのは、普段からなんでも話せる関係をつくっておくことだと話す。 「大事なことは、親がはぐらかさないことです。子どもが質問したときに、親が話題を変えたりごまかしたりすると、子どもは『語っちゃいけないことなんだ』と思ってしまうんですね。その場で答えがわからなかったら、『日曜日までに調べておくね』という感じで、期限を切ってあとで伝えればいいんです」