今年だけで10冊以上、「性教育本」が出版ブーム 背景にある教育への不安
家庭で性を教えるために
編集者の當眞文さん(29)は、高橋さんが監修した本に記したあとがきの一節を読み、「性教育の本を書いてもらうならこの人だ」と思ったという。 《本来、性は豊かなものであるはずです。この本ではタブーや恥の意識にとらわれず、性や体のすばらしさが明るく語られていて、女性たちは自分の体に誇りを持てるようになるでしょう。》 《科学に即して語られているのも重要な点です。価値観が多様化している現代、年代を超えて語り合うときの最低限の共通言語は、押しつけの倫理観ではなく、科学です。》 『世界中の女子が読んだ! からだと性の教科書』のあとがきである。ノルウェーの医学生による女性向けの性の本で、2019年12月に日本語訳が出版された。
高橋さんの著書の構成を担当した小宮山さくらさん(42)は、娘が小3のとき、「赤ちゃんってどうやってできるの」と聞かれた。「嘘はつきたくないと思いました。だけど私自身も親からきちんと性教育を受けた世代ではないので、伝え方に悩みました」。
小宮山さんは、ベストセラーから翻訳絵本まで、片っ端から性教育の本を見ていった。いいなと思う本もあったが、「家庭での性教育」をうたう本の多くには、気になる点があった。 「これは(娘に)読ませたいなと思う本と、読ませたくないなと思う本の違いは何かというと、科学的に語っているかどうかでした。例えば、『あなたはお母さんに望まれて生まれてきた大事な命なんだよ』みたいな、ほわっとした教え方をするのは、子どもが本当に知りたいことに答えていないと思うんです」
「愛されて生まれてきた」「いずれお母さんになるあなた」といった倫理観やジェンダー観を前提にして語ることにも疑問を持った。 「母親を知らない子もいるし、虐待を受けている子や理由があって施設で育つ子もいます。同性愛者の子もいるし、将来子どもを産まない選択をする子もいるはずです。多様性への配慮を欠く本が多いなという印象を持ちました」 できあがった本を前に、小宮山さんはこう語る。 「伝えたいことは、どんな境遇にいようとも、あなたの体はあなたのものなんだよ、だから大事だし、自分の体と心について知ることは、あなたの権利なんだよという、ごくシンプルなメッセージなんです」