今年だけで10冊以上、「性教育本」が出版ブーム 背景にある教育への不安
性交はカリキュラムに入っていない
現在の学習指導要領では、小学4年生の保健体育で月経や射精について学ぶことになっている。5年生の理科で「人のたんじょう」という単元があり、母親のおなかの中で受精卵がどのように成長し、赤ちゃんになって生まれてくるかを学ぶ。 中学3年生になると保健体育で性感染症予防のためにコンドームを使うことを学ぶ。しかし、どのようにして妊娠するか=性交はカリキュラムに入っていない。 「セックスを取り扱わずに性感染症予防を伝えるという、そんな謎かけみたいなことで真の理解は生まれるでしょうか。『寝た子を起こすな』と、性交を教えることに反対する人もいますが、今の子どもたちは寝てなんかいません。インターネットには性の情報が氾濫していますし、アダルトビデオもいくらでも目に入ってきます。『AVで起こされるのと正しい知識で起こされるのと、どちらがいいですか?』ということだと思うんです」
学校現場での取り組み
小学校や中学校での「性教育」は、教師が教えられない部分を、外部講師として招かれた産婦人科医などで補っている面がある。 川越市は2010年度から、市内の子育てNPOや産婦人科医と協働で、命の大切さを教える「いのちの講座」に取り組んでいる。赤ちゃんとの触れ合いや妊婦体験、心肺蘇生術といった「命」の授業に加えて、4年ほど前から「性」をテーマに取り入れ始めた。同市教育委員会学校教育部長の内野博紀さん(58)はこう語る。 「望まない妊娠や性的虐待が社会問題になっています。子ども自身が性について知らなければ身を守ることもできないし、SOSを出すこともできません。そういうことが起こらないように学校でも取り組んでいかなければいけないと、この事業を始めました」
埼玉医科大学の助教である高橋さんは、地元である川越市の小中学校とつながりが深い。今年度中に、22ある市立中学校の約半数で、性感染症予防の講義をする予定だ。しかし、全校分の予算をつけているにもかかわらず、残る半分の中学校では実施の予定がない。内野さんはこう話す。 「話の内容がストレートと言いましょうか。『そこまで話していいのかな』という戸惑いが(学校側に)あるのも事実かと思います。すでに実施した学校の実践を伝えながら、(性の授業の)必要性を呼びかけていこうと考えています」 高橋さんはこう言う。 「自治体として取り組んでいるところは多くありません。一方で、熱心な学校から個別に依頼をもらうこともあり、温度差がありますね」