実質賃金は2カ月連続増、基本給32年ぶり伸び-日銀正常化に追い風
(ブルームバーグ): 物価変動を反映させた7月の実質賃金は2カ月連続で前年を上回った。好調な春闘が反映されて基本給が1992年11月以来の高い伸びとなったほか、賞与も大幅に増加し、名目賃金を押し上げた。金融政策の正常化を進める日本銀行にとって好材料となり得る。
厚生労働省が5日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、実質賃金は前年比0.4%増と市場予想(0.6%減)に反して増加した。6月には27カ月ぶりにプラスに転じていた。名目賃金に相当する現金給与総額は3.6%増となった。基本給に当たる所定内給与は2.7%増と前月から伸びが加速。賞与など特別給与は6.2%増だった。
エコノミストが賃金の基調を把握する上で注目するサンプル替えの影響を受けない共通事業所ベースでは、名目賃金は4.8%増。所定内給与は2.9%増と同ベースでの公表が開始された2016年以降で最高となった。
日銀は賃金と物価の好循環が強まり、消費者物価の基調的上昇率は2%目標に向け徐々に高まると予想している。植田和男総裁は3日、経済・物価見通しが実現していけば、政策金利を引き上げていく考えを改めて表明。賃金の伸びが物価上昇率を上回る状況が維持されたことで、追加利上げの時期を探る日銀に追い風となりそうだ。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、実質賃金の増加について「夏季賞与と賃上げ分を遡及して支給した分があり、特別給与が上振れている」ことが主因と説明。日銀政策への影響に関しては、「これをもってすぐ利上げということではないが、ベアが強くてそれが順調に反映されているのが確認されたという意味では、正常化に向かう方向を妨げない」との見方を示した。
実質賃金の算出に用いる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は7月に3.2%上昇。前月から伸びは縮小したものの、3カ月連続で3%台が続いている。
毎月勤労統計で賃金の伸びが予想を上回ったことを受けて、5日の東京外国為替市場では円が対ドルで上昇し、一時1ドル=143円19銭と相場が急変動した8月5日以来の高値を付けた。その後は円売りが優勢となり、前日終値付近で推移している。