〈解説〉ストーンヘンジの祭壇石がスコットランド産と判明、その深い意味とは
15年間探し続けてついに発見
ベビンズ氏は15年間、祭壇石の産地を探し続けてきた。氏のチームは、祭壇石の化学的性質をウェールズやイングランドの各地の露頭と比較し、何十もの候補地を除外してきた。そして今、ついに一致する場所を見つけた。「自分でも驚くべき発見だと思います」と氏は言う。「時折、夢ではないかと自分で自分をつねっています」 ベビンズ氏は今回、オーストラリア、カーティン大学の地球科学の大学院生であるアンソニー・クラーク氏とチームを組んで、地質学の技術を借りた。研究者たちは、1844年に祭壇石から採取された試料を使い、砂岩を構成するさまざまな鉱物の年代を特定した。そして、英国とアイルランドの堆積岩の露頭と比較した。 「祭壇石と一致したのは、スコットランド北東部のオルカディアン盆地の『旧赤色砂岩(Old Red Sandstone)』の露頭だけでした」と、論文の共著者の1人であるアベリストウィス大学の地質学者で地球化学者のニック・ピアース氏は言う。「これらの指紋は非常に特徴的なので、一致する場所はほかにはないと思います」 オルカディアン盆地の旧赤色砂岩の層は数千平方kmの広い範囲にわたって広がっていて、その厚さは場所によっては8kmにもなる。祭壇石がオルカディアン盆地のどこから来たのか、正確な場所はまだ分かっていない。
巨石を750kmもどのようにして運んだのか
新石器時代の人々が、750kmも離れた場所から、重さ6トン以上、長さ5mもある巨石をどのようにして運んだのかも分からない。 氷河によって運ばれてきたのではないかと主張する人々もいる。英ブライトン大学の地形学者であるデビッド・ナッシュ氏は今回の研究には関与していないが、ブリテン諸島の氷河の動きについて明らかになっていることを考えれば、「あの大きさの砂岩の塊が、スコットランド北部からストーンヘンジまで氷河によって運ばれてきた可能性は、ほとんどないでしょう」と言う。とはいえ、その道のりの一部を氷河が運んだ可能性はあるそうだ。 祭壇石は人間が運んだはずだ。陸路で運ばれた可能性は低い。スコットランドは「信じられないほど山が多い」し、当時の英国は森林に覆われていたからだ、とグリーニー氏は言う。 ベビンズ氏らは、古代人たちは祭壇石を海路で運んだと見立てている。英ヨーク大学の考古学者であるジム・リアリー氏はこの研究には参加していないが、「彼らはおそらく海岸線に沿って航行し、それから川で内陸に運び、最後は陸路でストーンヘンジまで持ってきたのでしょう」と言う。 その正確な時期は不明だ。しかし、当時の人々が牛などの重いものを海路で運んでいたことや、島々の間を行き来するために海を渡れる船を持っていたことを示す証拠がある。 新石器時代の人々がこれほど遠くから祭壇石を運んできたことを考えると、この石は非常に重要なものだったに違いないとリアリー氏は指摘する。この巨石は、旅の途中で、ほかのストーンサークルや記念物に使われていた可能性があると氏は言う。 「この石がストーンヘンジにたどり着くまで、おそらく100年以上の時間をかけて、非常に長く迂回した経路をたどったことが想像できます」