【東京学芸大】桐田英樹監督「原理原則」を徹底 成長促し続けた１年間の集大成みせる
第57回関東大学サッカー大会（関東大学サッカーリーグ戦3部参入戦）が今日26日から各地で始まる。23年から創設された関東3部への昇格を懸けて、東京・神奈川から3チーム、千葉から1チーム、埼玉と北関東が統合したNorteから2チームの計6チームで競う。総当たりのリーグ戦。優勝チームは自動で関東3部への自動で昇格し、2、3位は関東大学サッカーリーグ戦3部参入プレーオフ決定戦に出場する。鹿島アントラーズやベトナム1部ハノイFCなどで監督を務めたOBの岩政大樹氏（42）がコーチに就任した東京学芸大は、1年での関東復帰を目指す。3連載の2回目は、桐田英樹監督に話を聞いた。【取材・構成＝佐藤成】 ◇ ◇ ◇ まさかの監督就任だった。大学OBの桐田英樹監督は、JFLのソニー仙台で14年までプレー。コーチを務めたあと、東京転勤となった18年から週末だけ母校で指導することになった。2年ほど仙台に呼び戻されたが、22年から再び東京で学芸大のコーチとして活動していたところ、チームが関東2部、新設された関東3部を転げ落ちた。「さすがにちょっと何かを変えないといけないみたいなのがあって、首脳陣で話しました」。平日は仕事があり、毎日練習に来られる訳ではなかったが「やれることは何かあるのかな」と重役を引き受けることを決めた。 21年に関東2部3位で1部昇格プレーオフまで導いた星貴洋前監督は、桐田監督の2学年下の後輩で、ともに戦ってきた同志だった。大学時代から知る仲間への信頼は厚く、コーチとして今季も残ってもらった。「別に星がダメだからとかではないから、監督が変わることでチームにとって何かきっかけになればと思っていて、今後のことを考えて残ってもらった」と説明した。 監督就任にあたり、まず会社に掛け合った。「会社の上司には週1回、抜ける日を作らせてくれと言った。一応そういう申請も出して、OKと。人事の人たちも結構理解がありました」。水曜を指導日とし、会社の業務は基本的にリモートで対応。練習以外の時間に固めて仕事をしているという。 監督ながら、平日は週1回しか練習を見られない。不安もあったが、火～金曜は他のコーチらと業務管理アプリ「slack」を活用して練習メニューを共有し、週末の試合に備えるスタイルを構築。大学准教授の新海宏成総監督／顧問、星コーチの3人を中心に、1年での関東復帰を目指すシーズンが始まった。 監督として重視したことは「成長」。選手たちに訴え続けた。社会人としての経験がありながら、プロに限りなく近いJFLという高いレベルの基準を示すことができるのが強みだ。関東リーグに復帰する上で、個々としてもチームとして「成長」は不可欠だった。「自分が成長することに期待できるようになれば、勝手にモチベーションって上がってくるはず」とトレーニングやミーティングの中で限界を引き上げるようなアプローチでチームを引き上げた。関東昇格だけでなく、来年、再来年、さらにその先を見据えた取り組みを求めた。 プレーヤーとしての成長とともに人間的な成長も求めた。「社会人として通用するような人にならないといけない」。そこから逆算して考えて「今の行動はどうですか」と語りかけ、強い組織に仕上げた。サッカーも同じだった。重視したのは「原理原則」。多くのことを求めすぎると混乱する可能性があるため、サッカーをする上でおろそかにしてはいけない基本を徹底した。 年始の始動直後に行ったトレーニングマッチが1つのきっかけだった。大学の同期である藤倉寛氏が監督を務める帝京高と練習試合を行うと、2－7で大敗した。「本当に全然サッカーわかってないんだなと思った。次の日から2対2の練習からやった。まずディフェンスからやらないとと思ってチャレンレンジ＆カバーからやり始めました」。 守備の立ち位置、約束事、攻撃の優先順位…。チーム全員の目線を合わせることで初めてピッチ上で同じ絵を描くことができる。その作業を繰り返して、関東大学サッカーリーグ戦3部参入戦進出までこぎつけた。絶対的なスタメンはそれほど多くない。多くの選手を起用し、「誰が出ても同じサッカー」を目指した。 東京・神奈川1部はチームによるレベルの差が広く、簡単なシーズンではなかった。いくら日々の練習で成長を求めてチームを強化しても、相手が自滅するような形で勝利を収めてしまうこともあった。いつの間にか緩みが生まれがちな環境だった。6月、1位の帝京大との試合でその弱さが出た。アミノバイタル杯1回戦でも帝京大に0－6で敗れた。ずるずると負けが込んでもおかしくなかったが、選手たちが踏ん張った。 「あの時期はよく頑張った。夏合宿の時に、1回ちょっとまた変えないとダメだなと思って、本当は走らせたくないんだけど、走らないと強度出せないなと思って素走りのトレーニングをいれるようにしました」 高強度なサッカーを展開するために一から見つめ直した。そこに8月末から1学年下の後輩、岩政大樹コーチ（42）が加わった。 「マサもたぶん気遣ってくれていて、俺がやっていることをちゃんと理解しつつ、『こうやったらもっとメッセージとしてわかりやすいんじゃないか』という伝え方をしてくれている。こことここだけはやろう、あとは好きにやろう、みたいな感覚だと言っていた。『Jリーグの監督も同じこと言うね』となったから、すごくありがたいなと思っています」 岩政コーチは原理原則を大切にし、その発展部分を伝えてくれた。元プロ監督の言葉はどうしても学生たちに響きやすい。それだけをすればよいと勘違いしてもおかしくないが、スタッフでバランスをとってやれているという。岩政コーチと同学年の新海総監督も含めて、学生時代に同じ時間を共有した首脳陣がそろっていることがプラスに作用した。 試合中も“岩政効果”は表れた。監督として自身が試合に入り込みすぎている時に、客観的な視点から気づきを教えてくれる。「『その通り！ 忘れていた』となりますね。すごくポジティブだなと思います」と支えに感謝する。 26日から始まる関東大学サッカーリーグ戦3部参入戦では、6チーム総当たり戦。5週連続でプレッシャーのかかる試合を戦う。「あとは選手がタフになるだけです。頑張ってほしい。血みどろの戦いの中で頑張れますかという話」。ビハインドになっても追いついて逆転するメンタリティー、攻め込まれてもはね返し続ける粘り強さが必要になる。1年間の成長を示すときが来た。（続く）
