なぜ井上尚弥は大舞台に強いのか…空き巣被害にショックと怒りも「ピークじゃない。まだまだ強くなる!」
100点の自己採点をつけた試合は過去にもある。 「けっこうありますよ。パヤノ戦もそう。ナルバエス戦もそうです。タイトルを取る試合はいい試合ができている」 2014年12月にWBO世界スーパーフライ級王者、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦して戦慄のボディショットで2回に沈めた試合と、2018年10月のWBSS1回戦で、元WBA世界バンタム級スーパー王者だったファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)をわずか70秒でワンパンチで倒した2試合をリストアップした。だが、バンタム級の王座に初挑戦してWBA世界同級王者のジェイミー・マクドネル(英国)を1回で倒した試合や、英グラスゴーに乗り込んでのWBSS準決勝で、2団体統一戦でもあったIBF世界同級王者、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2回で倒した試合など、相手ボクサーが強豪で、その舞台が大きくなればなるほど、インパクトのある試合をしてきた。 なぜ井上は大舞台に強いのか。 「それだけ楽しんでいる証拠なのかな。これを言うと相手に失礼になるが、ランカーとの試合とタイトルを取る試合とを比べると、事前練習からの気迫、(試合への)向かっていき方が違う。当然(すべての試合で)同じように練習をするが、心のどこかで差が出る」 今回のドネア戦の前日計量の直前に大橋会長に「寂しいなあ。この喉の乾いているこの瞬間がこれで終わっちゃうかな」と漏らした。 ボクサーは1日でも早く減量から解放されたいもので、ましてや井上の減量は楽ではない。あまりに意外な言葉だったが、「ここまで来るために落としてきたものが、一瞬でいらなくなってしまう。だから寂しいなって。でもそれは計量30分前のこと。1、2日前は早く終われと思っていた」という。 ドネアとの再戦を前に積み上げた“気迫の努力“のプロセスに満足していたからこそ漏れた言葉だったのだ。 だが、逆に大舞台のプレッシャーが硬さに変わり、リングで力を発揮できないボクサーも少なくない。それでも井上は力を出せる。その理由を「なぜか、わからない」と言うが、真吾トレーナーがこう解説した。 「1ラウンドはやはり(動きは)硬いんです。でも、そこからスイッチが入ったときに自分のペースにひきずり込める。徐々に自分のボクシングがやりやすい流れを作っていく」 まさにドネア戦の残り10秒からのスイッチオンがそうだった。 現在3位のパウンド・フォー・パウンドで、1位のヘビー級3団体統一王者で、クルーザー級で4団体を統一したことのあるオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)、2位のWBO世界ウェルター級スーパー王者、テレンス・クロフォード(米国)を抜きトップに踊り出る可能性が出てきた井上は、今が全盛期なのか。 本人の答えはノーだ。 「まだ強くなります。今がピークじゃない」 そして、その根拠をこう続けた。 「あてはめ方で成長するんです。昨日はドネアに対するボクシング。バトラーとやれば、また違うバトラーを倒すボクシングをやる。ひとつじゃなく相手に適応するところがノビシロ」 強い相手への研究、対応で、未知の引き出しが増えて自らが強くなっていく。