井上尚弥の衝撃2回TKO劇の全舞台裏…敗れたドネアは現役続行可能性を示唆?
プロボクシングのWBA、IBF、WBC世界バンタム級の3団体統一戦が7日、さいたまスーパーアリーナで行われ、WBAスーパー&IBF世界同級王者の井上尚弥(29、大橋)が、WBC同級王者ノニト・ドネア(39、フィリピン)を2回1分24秒TKOで下して日本人初の3団体統一王者となった。井上は1ラウンドの終了間際に右のクロスカウンターで1度目のダウンを奪うと2ラウンドには、怒涛の攻撃を見せてドネアを何度もぐらつかせ、最後は左フックでキャンバスに沈めた。実は、痛み止め注射を打たねばならなかったほどの故障の不安を抱えドネア側のエージェントの問題などもあり、試合開催が危ぶまれる危機を乗り越えての衝撃TKO勝利だった。井上の次なる目標は、過去に7人しかいない4団体統一王者。年末に日本にWBO世界同級王者のポール・バトラー(33、英国)を迎えてのビッグマッチの実現が有力で、今回独占生配信したAmazonプライムビデオに加えて、NTTグループが名乗りを上げるなど、早くもモンスターのビッグマッチを巡って水面下での争奪戦がスタートしている。
「ドネアがダウンした瞬間は夢かと思った」
ドラマの“続き“はなかった。そこにあったのは、さいたまスーパーアリーナを埋めた1万7000人のファンを熱狂させた衝撃的な井上の強さである。2分1分24秒のTKO決着という結末を誰が予想できたのか。 「やりました!」 それが日本人初の3団体統一王者となった井上のリング上での第1声。 「こういう早い回の決着も予想していたし、2年7か月前のああいう激闘も予想していた。いろいろなプラン、展開をイメージしていて臨んだ」という井上だが、「最初に(ドネアが)ダウンした瞬間は夢かと思った」とも言う。 人気ギタリスト布袋寅泰のギター演奏で先に入場してきた井上はドネアの様子を冷静に観察していた。当日計量で、ドネアが体重の戻しを前回よりも抑えてきていることを知った井上は「スピード重視で来る」と予想していた。 ゴングと同時にレジェンドが仕掛けてきた。フェイントを一発いれて、いきなり左フックを放ったのだ。井上はガードの隙間を抜くように右目付近を襲ってきた”伝家の宝刀”を浴びてしまう。 「あれで目が覚めた」 2年7か月前のトラウマが蘇った。 井上はガードを固めて警戒心を強めた。踏み込みよりディフェンスを意識したパンチの交換。左の差し合いではドネアが上回るシーンもあった。 「プレッシャーをかけてきてパンチを出させてカウンターを狙ってくる」 一度拳を交えドネアの戦法はわかっていた。 井上の予想通り、距離を測るドネアの足は軽快によく動いていた。だが、残り10秒を知らせる拍子が鳴った直後に、モンスターにスイッチが入った。 上体を揺らし右のパンチへのアクションを起こしかけたドネアのテンプルに井上のショートの右ストレートがクロスカウンターとなって炸裂したのである。ここまで48戦のキャリアでKO負けが一度しかないレジェンドが、たまらず腰からダウン。すぐに立ち上がったが、井上が手を広げて「さあ行くぞ!」のパフォーマンスを見せると、場内のボルテージが最高潮に達した。試合後、井上は、「勝負を決めるポイントになった」この右のクロスが生まれた経緯を、こう説明している。 「1ラウンド目は絶対に取らなきゃいけないと思っていた。あの左フックをもらった瞬間にそれ以上のインパクトを残さないと、このラウンドは取れないと。残り10秒の合図が鳴った時に少しだけエンジンをかけた。そこでうまく右が当たった」 このラウンドで踏み込んで打ったパンチは、この一発だけ。「抜けた感じで手応えはなかった」という右が、百戦錬磨のドネアの度肝を抜いたのである。そのレベルはもはや異次元だ。