練馬発「対話的研究会」という試みから見える民主主義の実践に必要なこと
10月3日午後6時、西武池袋線大泉学園駅近くの練馬区立勤労福祉会館。 Wedge2024年11月号特集内の暉峻淑子埼玉大学名誉教授の記事「日本を真の民主主義国へ 『対話のある社会』をつくろう」にある「対話的研究会」は毎月第1木曜日の夜、この会議室で定期的な集まりとして行われている。研究会は2010年6月に開始し、今年で15年目を迎える。 この日の参加者は全部で15人。「どんな様子なのかを実際に見てみたかった」との理由で、大阪から飛び入りで参加した人もいた。 研究会のメンバーは30代~90代、約30人で構成され、障がい者施設の指導員や介護事業のヘルパー、保育園の保育士、会社員、主婦、定年退職後の人など、実に様々である。 参加費は1人わずか100円。基本的に外部講師を招くのではなく、メンバーが順番に自分の関心がある問題を新聞記事や本などを読んで勉強し、スピーカーとなって報告する。これまで発表されたテーマは「激動の女性史─練馬の女性運動と聞き書き」「地方財政のあり方を考える」「ウクライナ戦争と平和憲法について考える」など、多彩だ。 この日は、メンバーの一人である一橋大学大学院生の戸井田晴美さんが「児童虐待による親子分離と家族再統合」と題し、児童虐待の現状と歴史、家族のあり方に関する考えを発表した。その後はこんな意見交換がなされた。 「日本の社会はいろいろなものを家族に背負わせ過ぎていないか」 「結婚しない人が増えている。これからの家族はどうなっていくのか」 「虐待される子どもたちはもちろんだが、虐待してしまう人の心のケアも必要ではないか」 なかには、幼少期に父親から虐待を受け、「父親が家に帰ってくるのが怖くて押し入れに隠れていた。でもお小遣いは欲しかった」と複雑な胸中を語る参加者もいたが、終始和やかな雰囲気で何でも言い合える場であることが印象的だった。 「まず人の話を聞き、受け止める。その上で自分の考えをありのままに話すこと。この研究会の楽しみ、意義はここにあります」 こう話すのは、この日の進行役で、メンバーの一人である君垣圭子さん。君垣さんは研究会に参加して今年で13年目になる。なぜ、こんなにも長く参加し続けているのか。 「聞くこと、話すことを通じて、自分のなかで力になっていることを実感します。対話的研究会は私の人生、心を豊かにしてくれる〝糧〟になっています。だからこれからも参加し続けたいと思っています」 次回は練馬区議会議員を招き、区政の現状、課題を聞き、対話することになっているという。 民主主義の実践には、地域の課題や社会問題などに関心を持ち、自分の意見をもとに人々と「対話ができる市民」を増やすことが重要である。小さな規模でもいい。練馬発「対話的研究会」のような試みが全国各地に広まることを期待したい。
大城慶吾