地対空ミサイル「パトリオット」は崖っぷちウクライナ軍の"命綱"となるのか?
その後方にも露軍は展開しているのだろうか。 「自国領ですから安心しています。最前線から40kmは露軍の砲兵、戦車部隊、通信部隊、補給部隊が展開しています。 ここは射程40kmで装甲車両も破壊可能なスイッチブレード600で指揮、通信車両、電子戦部隊から破壊します。そこに米国の供与が再開された155mm榴弾搭載の自走砲2両から、1分間で計10発撃てば十分です」(二見氏) 最前線から40km後方まで掃討すれば、露軍の集結は防げる。 「高機動ロケット砲システム『ハイマース』は、誘導をロシアに狂わされてしまい、活躍しているニュースが出てきませんでしたが、最近精度の高い攻撃ができるようになっています。射程が長く精度が高いため、その用途は多岐に渡ります。旅団・師団規模の指揮所、通信システム、対空ミサイル部隊、電子戦部隊、集結部隊、兵站部隊、弾薬・燃料集積所などの破壊に使用できます。 さらに、S300を搭載した地対空ミサイル車両も破壊しています。対空火器を破壊し、航空攻撃実施の条件を作為し、ウ空軍に空爆要請をします。ミグ29、Su27に4発ずつ搭載可能な射程110km、弾頭重量93kgのGBU39小直径滑空誘導爆弾と、ハイマースの6発の統合運用で各種火器をしっかり打ち込みます。70km以遠はウ空軍が安全に投射できる距離まで、GBU39で攻撃すればよいでしょう」(二見氏) 6月18日の報道によると、前出のボウチャンスクで孤立した400人の露兵に対し、ウ空軍はミグ29とSu27から滑空精密誘導爆弾を投下している。至近投下で試し、距離を伸ばして使う可能性はある。では、100km以遠の露軍に対してはどう攻撃するのだろう? 「100kmあればどこかに集積所を設けないとなりませんから、狙う場所はいくらでも出てきます。当然、最大範囲250kmの空中発射巡航ミサイル『ストーム・シャドウ』で露軍指揮所、弾薬、燃料集積所の兵站部隊を狙います。 こうして、ウ軍砲兵隊とウ空軍の滑空誘導爆弾、ミサイル攻撃で、露国領土をウクライナ国境から200kmの範囲を耕していきます」(二見氏) こうすれば、ウ軍最前線での戦死傷者の数を減らすことができる。 「この砲爆撃作戦案は、近い所から遠い所に順番に説明しましたが、実戦では統合火力調整所から最適な目標が設定できれば、遠近に関係なく攻撃を開始するでしょう。最初は遠く、次は近く、また遠く、そして中間地帯と、ランダムに掃討していきます」(二見氏) 最前線を守り、露軍の侵攻を阻む掃討作戦だが、これで安心なのだろうか? 「いいえ、仕上げはウクライナとの国境線のロシア領土内400mまで、地雷原を築くのが理想です。すでに露軍は一掃されて、ウ軍には安全地帯になっているので、丁寧に地雷を埋設し地雷原を構築できます。これにより地雷原手前で戦車、装甲車両を停止でき、そこをジャベリン対戦車ミサイル・FPVで片付けます」(二見氏) こうして、なんとか露国本土からハルキウへの持続的な侵攻を防げるのだ。 「それで終わりではありません。北部戦線が落ち着けば、ウ軍の機動部隊を東部戦線に予備兵力として回したいです。 機動部隊の単位は、機械化旅団です。東部地域での攻勢が続いているチャシブヤール、アウディーイウカの正面です。戦場をコントロールできていないアウディーイウカへの増援の優先順位は高いです」(二見氏) 同時に、その東部戦線にゲリラ的にパトリオットとハイマースを転戦させないとならない。当然、露軍はこのふたつのシステムを全力で潰しにくる。 パトリオットは、崖っぷちウクライナ軍の細い命綱になりえるかもしれない。しかし、ウクライナには数システムしかない貴重な戦力だ。さらに米軍にも全世界に14システムしか残ってない。 もし露軍に潰され続けたら、日本が持つパトリオットを出せという要求があるかもしれない。すでに米国で足りなくなったパトリオットは、日本で生産されているからだ。 取材・文/小峯隆生