福岡のベーカリー「パンストック」がすごい理由
最近よく耳にする、通常の湯種よりも水分が多いゲル状の湯種「湯ゲル」と呼ばれる製法も、この店から始まったといっても過言ではない。全国にファンを持つ、トレンドセッター的な存在のベーカリー「パンストック」の魅力を解剖する。 『エル・グルメ No.40』掲載
最先端の製法を駆使しながら、広く愛されるパンを作る
福岡市の中心部から離れた住宅地にありながら、「パンストック」にはオーナーシェフの平山哲生さんが作るパンに魅せられた人々が全国から訪れる。店内に入ると平台が奥まで続き、100種類近いパンが並ぶ。焼き立てが次から次へと運ばれ、それを求める人の熱量に圧倒される。店名の由来は、自宅にパンをストックして毎日食べてほしいという願いから。平山さんにとって毎日食べたくなるパンとは?「いちばんはおいしいパンです。それに加えて味だけではなく、体に負担のかからないパンが理想ですね」 入り口には看板商品の「パンストック」やハード系のパンが並び、店奥に進むと菓子パンや総菜パンがお出迎え。
平山さんのパン作りには、欠かせないキーワードが2つある。まずは「食べやすさ」。パクパク食べられ、 次の一手が伸びる。そうして生まれたのが店の代名詞ともなっている高加水で長時間熟成させて焼いた「パンストック」だ。生地に水分を多く入れるとグルテンが生まれにくくなり、口溶けがよくなる。平山さんがいう体に負担がかからないというのもこの点だ。さらに長時間かけて生地を発酵させることで粉に水がいきわたり、その間に甘みとうま味も生まれる。高加水といっても水そのものを加えるのではなく、今では多くのベーカリーが使う湯ゲルもいち早く取り入れ、軽くなめらかな食感を提案。常に新しい製法を駆使して口溶けよく後味のいいパンを目指す。 チョコチップをまぶした「チョコブリオッシュメロンパン」(¥205)は子どもに人気。
もうひとつが疑問や探究心をもつこと。店では平山さんだけでなく、スタッフの誰かがいつも新しい生地や製法に挑戦しているという。試食し、意見を交わして得た疑問や結果は、データとして蓄積。例えば、卵白をそのまま生地に入れるのとメレンゲにして入れるのでは仕上がりが異なるが、それはなぜ? 食感や味はどう違う? 話し合って検証し、次のパン作りに反映させる。 多い日には一日1000本は売れる「明太フランス」(¥507)は次から次へと焼き上がる。