超意外なキーエンスの新規事業「ネット通販」参入か、ライバルはMonotaRO?ヴェールに包まれた戦略とは
■顧客はキーエンスの取引先 なぜ、キーエンスはこの分野に手を延ばしたのか。転職サイトでメイカーズが募集する営業職の業務内容を見ると「提案先は従来キーエンスと取引があるお客様が中心で、いわゆる飛び込み営業は一切ありません」と記されている。 キーエンスの強みは直販体制だ。熟練の営業担当が顧客と直接やり取りを重ね、現場の課題や生産状況を知り尽くした上で、最適な自社製品を提案してソリューションをもたらす。この一連の動きを徹底することで、高収益を上げ続けている。
密なコミュニケーションの中で見えた、設計や調達段階でのニーズをくみ取るつもりなのだとしたら――。誰かがウェブサイトを訪問し、注文ボタンを押すのを待つという、ECの「受け身」とも言えるビジネスモデルにはとどまらないかもしれない。 キーエンス本体にとっても、もし商社のような機能を新たに備えるのだとすれば、本業とのシナジーで顧客との関係性をさらに深化させることが可能になりそうだ。 ■2024年度は売上高1兆円の大台へ
あるいは、既存のECサイトとは一線を画する新しいシステムを作るのだろうか。メイカーズのホームページには、デジタルテクノロジーの力で今より安く安定的に商品を調達できる世界を実現する、という趣旨の説明がある。 新製品のうち約7割が「世界初」「業界初」とされるキーエンスだけに、革新的な戦略を打ち出してくる可能性も高そうだ。 キーエンスが4月25日に発表した2024年3月期の業績は、売上高が前期比4.9%増の9672億円、営業利益が同0.8%減の4950億円だった。純利益は同1.8%増の3696億円で過去最高純益を3期連続で更新。中国市況の悪化でFA(ファクトリーオートメーション)業界が全体的に振るわない中でも、盤石ぶりを見せつけた。
同社は業績予想を公表しないが、2025年3月期に売上高1兆円の大台突破がほぼ確実視されている。超優良企業が流通分野で描く、次なる戦略とは。今はまだ謎に包まれた新機軸から目が離せない。
石川 陽一 :東洋経済 記者