超能力バトルの興奮と警察捜査小説の醍醐味を味わえる『バーニング・ダンサー』など、暑い夏におすすめのエンタメ小説7冊(レビュー)
暑い夏におすすめのエンターテインメント小説7冊を書評家・大矢博子さんが紹介。 *** 冬の贅沢に、暖房の利いた部屋でアイスクリームを食べる、というものがある。であるならばこの猛暑、冷房を利かせて熱いものを食べるというのもアリなのでは──と思ったのだが、熱い料理を作るという行為を想像しただけで疲れた。お湯を沸かすことすらしたくない。台所を預かる家族に「暑いから素麺でいいよ」と気を利かせたつもりで言ってしまう皆さん、あれ、茹でるの地獄ですからね? 思わず日常生活の愚痴まで漏れてしまったので方向転換。だったら涼しい部屋で暑い・熱い小説を読むというのはどうだろう。どうせなら燃えるほど熱いものを。ってことでまずは、人体が燃えてしまう阿津川辰海『バーニング・ダンサー』(KADOKAWA)から始めよう。 世界に百人、コトダマ遣いと呼ばれる超能力者がいきなり存在するようになった。それまで普通の人間だったのが、謎の隕石が落下してから突然、妙な能力を与えられたのだ。百人すべて異なる能力で、その人物が死ねばまた別の人物にその力が引き継がれる。 そんなコトダマの力に「燃やす」というものがあり、その能力を使ったらしい殺人事件が起きた。ふたりの犠牲者のうちひとりは体が炭化するまで燃やされ、もうひとりは身体中の血を沸騰させられての死だ。その犯罪に対峙するのは、こちらもコトダマの力を持つメンバーによって構成された警視庁の特殊部署だった──。 超能力バトルの興奮、警察捜査小説の醍醐味、それぞれ異なる力を持つ個性的な面々が集うアベンジャーズ的楽しみが一冊にぎっしりみっちり詰まっている。それだけでも充分面白いのだが、やはり阿津川辰海は騙してナンボの本格ミステリ作家なのだ。 相手の能力が何なのか、それはどういう条件下で発揮されるのか、どんな使い方ができるのか。コトダマという特殊設定を実に巧みに使い、鮮やかに読者を騙す。うわあ、それか、それだったのかと何回ものけぞり、終盤のどんでん返しの波状攻撃には大興奮だ。これは熱い。