アニメ制作市場、初の3000億円突破 過去最高を大幅更新 『すずめの戸締まり』など映画の相次ぐヒットが追い風
専門スタジオ(下請):「赤字」割合、4年ぶり4割台 元請との収益格差が拡大
下請としてアニメ制作に携わる「専門スタジオ」では、2023年の平均売上高は3億9100万円となり、3年連続で前年を上回った。業績動向では、「増収」は33.3%、「減収」は20.1%と増収が減収を上回ったものの、増収割合は過去最小だった。他方、「前年並み」が過去最高となる46.6%を占め、売上高では頭打ちの傾向が強まった。損益面では「赤字」が43.1%を占め、コロナ禍でアニメ制作がストップした20年(43.8%)以来3年ぶりに40%を超え、同年に次ぐ過去2番目の高さを記録した。 専門スタジオでは、アニメ制作本数の増加に伴い受注が好調に推移するほか、業界全体で受注単価は上昇傾向とみられ、売上高は増加となった企業が多かった。他方、損益面ではアニメーター不足の影響を受けて給与水準を引き上げたことで人件費負担が増加したケースが多かったほか、3DCGなどデジタル機材への置き換えによる設備投資負担の増加が影響し、利益が大きく押し下げられたケースが目立った。また、外注比率の高い制作会社では、特に海外への外注で円安効果によるコスト増もマイナス要因となった。元請制作と異なりコスト増分をIP収入などでカバーできなかったことが、赤字となった専門スタジオの割合が増加した遠因となった。
従来型のビジネスモデルに変化 主な収益源、テレビ放映→「劇場版」「配信」に 版権保有がカギ
2024年以降は、『鬼滅の刃 柱稽古編』の大型タイトルを筆頭に、『【推しの子】』『ブルーロック』『この素晴らしい世界に祝福を!』など根強い人気を誇る作品の続編が放映される。また、内閣官房の資料では日本のコンテンツ産業における輸出額は年間約4兆6900億円に上り、このうち「アニメ」は約3割と大きなウエイトを占めている。過去の名作アニメを中心に「日本アニメ」はキラーコンテンツとしての地位を獲得しており、引き続き世界市場でのシェア拡大が期待される。今後は、新たなアニメタイトルの投入・ヒットによる過去作への依存度分散が注目される。 国内市場に目を向けると、Netflix(米)などが独自作品の制作に巨額の資金を投じていることを背景に、配信サービス向けの制作収入が重要な収益源となっている。また、シリーズ化したアニメ作品では成功時のリターンが大きい劇場版に制作資源を集中投入する動きもみられる。いずれも、収益の最大化を目的に制作会社が積極的に版権(IP)を保有するケースが増えており、製作委員会からテレビ向けアニメを多く受託・制作する従来型のビジネスモデルに変化が生じている。 他方で、アニメ制作を下支えするアニメーターの多くが依然として低賃金を余儀なくされているほか、IP収入が期待できない下請となる専門スタジオではコスト増による収益悪化が深刻化している。IP収入をはじめとするアニメ産業市場の収益拡大を、末端の制作現場へどう還流するかが課題となる。急速な進化を遂げる「生成AI」を活用したアニメ技術も広がりの兆しを見せるなか、著作権侵害から日本アニメをどう守るか、対応策も今後の焦点となる。 2020年代のアニメ制作業界は、配信チャネルや収益源が多様化するなかで、クオリティ維持や将来に向けた投資を可能とするヒット作の収益還元といった仕組みづくりにおいて、どのような制作モデルが最適かを模索する展開が続くとみられる。