自宅の常設DAC兼ヘッドホンアンプが3世代目にアップデート! iFi Audio「ZEN DAC 3」を確かめる
■4年ぶり2度目、高橋敦氏が「ZEN DAC」をチェック! 2020年2月に本連載でチェック、その好感触で筆者自室システムに即導入となったDAC兼ヘッドホンアンプがiFI Audio「ZEN DAC」だ。(参考:デスクトップオーディオの新たな“コア”、iFI Audio「ZEN DAC」を徹底チェック!) デスクトップ設置に支障ないコンパクトさで、ヘッドホン出力とライン出力の同時出力が可能で、パワードスピーカーにつなぐライン出力側の音量は可変と固定を選択可能で、据え置き利用では扱いが面倒になりがちな内蔵バッテリー方式ではない。筆者がデスクトップオーディオ用DAC兼ヘッドホンアンプに求めるそれらすべてを満たす製品は当時は他にあまり見かけず、それを完全クリアしてくれたZEC DACに飛びついたのだ。 そのZEN DACは一般的にも好評を博し、その後、ライン出力特化モデル「ZEN DAC Signature」、シンプルモデル「ZEN Air DAC」とシリーズ展開されていたのだが……。 この2024年4月、ZENシリーズ第3世代となる「ZEN DAC 3」が発売された。価格は39,600円だ。 お値段が発売当時の初代ZEN DACの実売価格から倍近くに跳ね上がっているが、物価上昇と円安の二重打撃時代なので仕方ない。初代は当時にしてもコスパ良すぎだったし、その初代の標準小売価格にしても発売時の2万2000円から2022年9月には3万3000円へと値上げされていたのだ。 それに現在の製品として見れば、本機の機能や仕様と価格のバランスは他社同クラス製品に劣るものではない。つまり、前述の条件を満たすデスクトップオーディオ好適モデルを改めて現時点の現行製品から選ぼうとするなら、ZEN DAC 3はやはりその有力候補として上がってくるわけだ。 ならば4年ぶり2度目のZEN DACチェック、やるしかない。 ■ヘッドホン&ライン同時出力は健在 まずは改めて「ZEN DAC」としての基本、それを踏まえての初代から3での変化を確認していこう。 “ZEN DACシリーズ”はデスクトップサイズのDAC&ヘッドホンアンプ。PC等とUSB接続できて、そこからDACとしてのライン出力と、ヘッドホンアンプとしてのヘッドホン出力を行える。 DACとヘッドホンアンプの機能を併せ持つ形のアイテムの中でもこのZEN DACシリーズは、製品名からもわかるように、DACとしての性能や機能も重視されているタイプだ。背面にライン出力専用のRCA端子、ラインバランス出力用4.4mm端子を用意。後者は4.4mm to 4.4mmの接続のほか、変換ケーブルを用いれば一般的なXLR端子バランス入力との接続も可能になっている。 その背面では「VARIABLE FIXED」切替スイッチも要注目。ライン出力の音量を本機のボリュームノブによる可変とするか、それともラインレベルに固定するかを切替選択できる。前者を選んだ状態での本機はプリアンプの役割も兼ね、後者では一般的なDACとしての役割となる。 加えて本機はヘッドホン出力とライン出力は常に同時出力。つまりヘッドホン端子にヘッドホンやイヤホン、ライン出力端子にパワードスピーカーが接続されている状態では、その両方に音声信号が出力される仕様だ。 この仕様を採用している製品は、このクラスのコンシューマー向け製品では少数派に思える。一般には「ヘッドホン出力かライン出力かをスイッチで選択」「ヘッドホンが接続されていればそちら優先でライン出力はオフ」という排他出力になっている製品の方が多い印象だ。 だからこそ、この仕様を好むユーザーにとってZEN DACシリーズは貴重。例えば筆者のデスクトップシステムの構成は、 ZEN DAC→ヘッドホン出力→イヤホン&ヘッドホン ↳ライン固定出力→モニターコントローラー→パワードスピーカー というものだ。スピーカーの音量調整やオンオフは、モニターコントローラー(モニコン)のレベルノブとディマーやミュートのスイッチで行っている。スピーカー周りの操作は常にすべてモニコンで行えるようにしてあるわけだ。 この仕組みだとイヤホンやヘッドホンは常に接続しっぱなしで問題ないのも楽でよい。ヘッドホンを抜いたら自動でライン出力に切り替えられてヘッドホン用に上げてたボリュームがそのままライン出力されてスピーカーから爆音! なんて事故も起きない。筆者にとってはこれが使いやすい。 ただしこのあたりの使い勝手については本当に、人それぞれの使い方やシステムの組み方次第だ。なのでここは、ZEN DACのこの方式が最高!ということではなく、みなさんもそれぞれの使い方に合った仕様の製品を選んでくださいね! という話と受け取っていただければと思う。 初代機からどこが変わった?比較チェック ■初代からの変更点&初代から受け継ぐポイントを紹介 背面端子周りでの変更点としては、USB端子は初代のUSB 3.0 BからUSB-Cに変更。ケーブルの選択肢が広がった。 そしてこちらは初代と同じく、電源端子も用意。ZEN DACは普通にUSB給電でも動作するので、この電源端子は使用必須ではない。じゃあこれ何のためにあるの? というと、電源をこちらから供給するとUSBの電源供給はオフになり、USBをデータ伝送専用にできるという仕組みだ。 前面に目を移すと、見ての通りフロントパネルのデザインは大きく変更。ヘアライン仕上げのシルバー一色でシンプルな意匠だった初代と比べて凝ったものになったが、色合いがダークになったことでむしろより落ち着いた雰囲気だ。 そのフロントパネルに用意されている要素は、左から、 ●POWER MATCH(出力補強スイッチ) ●XBass+(低域補強スイッチ) ●ボリュームノブ ●6.35mmヘッドホンシングルエンド出力 ●4.4mmヘッドホンバランス出力 と、初代とおおよそ変わらない。 であるが低域補強機能は初代の「TRUEBASS」から「XBass+」へと変更。どちらもアナログ技術での調整で低域を補強するものだが、その効果の違いについては後ほどのサウンドインプレッションにて。 細かなところとしては、初代のフロントパネルはやや後傾していたのが今回は普通に垂直に。といっても、ノブやボタンや端子の角度は初代もパネルから独立して垂直だったので、操作感に違いはない。 さらに細かな話もすると、初代は、内部基板固定であろう6.35mmヘッドホン端子やRCAライン出力端子の外径に対してパネルの穴が僅かに大きく、端子がカタカタと動いた。しかし今回そこの造りがタイトになり、カタカタしなくなっている。何となく気持ちよい。 操作性でいえば、背面の可変/固定出力切替も含めあらゆる操作にそれ専用のボタンやスイッチが用意されているのは、初代から受け継ぐ好印象ポイント。小さな画面でメニュー選択したり小さなLEDの点灯色や点灯位置を見分けたりする必要はなく、「このボタンでこの機能をオンオフ!」と迷いなく操作できる。 ほかスペック的には、初代の倍の768kHz/DSD512のサンプリングレートへの対応、初代後期仕様と同じくMQAフルデコード対応など。バーブラウン製「トゥルーネイティブ」DACチップセットへのこだわりにも変わりはない。 付属品はRCAケーブル、USB C-Aケーブル、3.5mm→6.35mm変換プラグ。6.35mmへの変換プラグの付属は気が利いている。 ■ただでさえ優等生なZEN DAC、3世代目で音はどう変わった? ではサウンドについて、6.35mmシングルエンドヘッドホン出力での印象を主として述べていく。本機どの出力でもサウンド傾向は十分に揃えられており、重複して説明する必要はないだろう。イヤホンはqdc「Tiger」、ヘッドホンはソニー「MDR-M1ST」など、それぞれ数モデルで試聴。イヤホン試聴時にはFURUTECHの変換プラグ「F63-S(G)」を使用している。 不足を感じる要素はなく満遍なく優秀なことを前提に、特にここが魅力! な要素として、やや明るめの音調、音の粒立ちや抜けやキレに優れることを挙げたい。 民族楽器や古楽器とオーケストラを合わせたサントラ楽曲、Evan Callさん「Zoltraak」ではそれが特に顕著。打弦楽器ハンマードダルシマーの音色の複雑ながらも瑞々しい弾け具合、ティンホイッスルの素朴な構造から生み出される素直な抜け。再現が甘くなりがちなそれらの要素を、ZEN DAC 3は鈍らせることもぼやけさせることもなく、しかし変に強調してしまうこともなく、ニュートラルに届けてくれる。 ホセ・ジェイムズさん「Just The Two of Us」でも、エレクトリックギターのパキッとしたクリーントーンの艶やかさ、エレクトリックピアノの煌めきや揺らぎの再現に唸らされる。 加えて前述の「音の抜けやキレを再現しつつ、変に強調してしまうことはない」の見事さもさらに実感。こちらの曲はソフトで穏やかな雰囲気なので音が立ちすぎれば悪目立ち必至だが、ZEN DAC 3はそのさじ加減もちょうどよい。 また初代で聴くとこの楽曲のソフトで穏やかな雰囲気がさらに強まるのに対して、こちらで聴くと現代録音的なクリアさが高まる。そのクリアさのおかげで音の余白の残し方、空間表現などが際立つのも嬉しい。 空間表現、音の配置の美しさという点では、田村ゆかりさん「雨のパンセ」が最高だった。ボーカル音像の浮き上がりが素晴らしく、それが立体的に折り重なるハーモニーの美しさときたら。つまりボーカルソングとの相性もバッチリだ。 初代の「TRUEBASS」から「XBass+」へと変更された低音補強技術については様々な曲で比べてみたが、曲や好み、さらには組み合わせるイヤホンやヘッドホンによっても、どちらが合うか分かれそうだった。 例えば星街すいせいさん「ビビデバ」の強烈なベースラインに対しては、イヤホンのTigerでTRUEBASSをオンにするとバリ効いてクラブ的にファットなブースト感を演出してくれて好印象。対してXBass+と同イヤホンの組み合わせだと、この曲のベースの重心とのマッチングがイマイチなのか、音程の上下次第で音像の膨らみが凸凹してしまい不安定だった。だがヘッドホンのMDR-M1STでは問題なく好印象。 ホセ・ジェイムズさん「Bag Lady」の5弦ベースによる低重心のベースラインに適用すると、同イヤホンでのTRUEBASSは音をド太くはしてくれるものの全体に緩んだ雰囲気に。対してXBass+はこの帯域のベースには安定して効き、低重心を維持したまま存在感を強めてくれた。 低域補強技術については「曲やイヤホンとうまく噛み合ったらラッキー!」くらいの心持ちで、オプション的に考えておくのがよいかと思う。 ZEN DAC 3の使いこなしポイントを紹介 ■高感度イヤホンとの組み合わせに活用したい「iEMatch」 最後に使いこなしのポイントになりそうなところをひとつ。 前述のように本機のヘッドホン出力はシングルエンドとバランスでサウンド傾向に大きなズレはない。しかし音調とは別の部分に無視はできない違いがある。実際に聴いた際のS/N感はシングルエンドの方が明らかに良いのだ。高遮音性&高感度イヤーモニターと組み合わせて聴くと、シングルエンドでは気にならないが残留ノイズがバランスでは気になる。欧州の据え置き分野ではイヤホンよりヘッドホンが人気とも聞くので、それに合わせたハイパワー設計に由来するのかもしれない。 であるがもちろん、iFiもそれを見落としていたりはしないのでご安心を。同社からはそのマッチング問題を解消できるアクセサリー「iEMatch 4.4」が提供されている。 ハイパワーバランス出力と高感度イヤホンの間にこれを挟むことで得られるメリットのひとつとして挙げられているのが「バックグラウンドヒスの低減」だ。これを用意しておけば本機のバランス出力は、高感度イヤホンから高出力要求ヘッドホンまで幅広い組み合わせに対応してくれるだろう。XBass+の安定感への好影響も期待したい。 このアクセサリーで高感度イヤホンとのマッチングも確保できることが前提にあってこその、本体単体ではハイパワー設計。そういうことかと思う。電源端子もそうだが、オプション活用によるグレードアップや使いこなしの楽しみをユーザーに提案するかのような仕様だ。オーディオブランドらしいマインドを感じられる。 ■デスクトップシステムにスピーカーを組み込みたい人に ということで4年ぶり2度目のZEN DACチェックだったが、最新世代となるZEN DAC 3もさすがの完成度。というか基本的な構成は初代から変わっていないので、その時点で完成度が高かったことを改めて思い知らされた感もある。その上で今回はさらなる現代化、ブラッシュアップが施されたわけだ。 デスクトップオーディオに求めるものは人それぞれ。求める理想に本当にフィットするアイテムを見つけ出すのはなかなかに難しい。 そんな中でのこのZEN DAC 3のポイントはやはり、ライン出力の充実とその運用の柔軟性だ。イヤホン&ヘッドホンだけではなくパワードスピーカーを組み込んだシステムを構築したい方には特に、検討に値する製品としてプッシュしたい。 高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 [連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら
高橋敦