じつは、登山は最高のトレーニングだった…なんと、毎日のジムをはるかに超える登山のトレーニング効果
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】山を登るのは「有酸素運動の最高峰」だった…その納得の理由 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、登山と下界のトレーニングの効果を比べた結果をご紹介します。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
登山は最高のトレーニング
「下りで脚がガクガクになる」というトラブルに対して、登山(主トレーニング)と下界でのトレーニング(補助トレーニング)とが、それぞれどれくらいの効果をもたらしているかを比べてみました(図)。これを見ると、どちらの場合でも、回数を多くやっている人ほどトラブルの発生率は少ないことがわかります。 ただし、破線のところで両者を比べてみてください。左の図で下界でのトレーニングをほぼ毎日やっている人よりも、右の図で2週間に1回山に行っている人のほうが、トラブル発生率は少ないことがわかります。毎週山に行く人ではもっと少なくなります。この図から、登山のほうが下界での補助トレーニングよりも、効果が大きいことがうかがえます。 「下りで脚がガクガクになる」というトラブルは、登山事故の中でも特に多い転ぶ事故に直結するので、その防止は重要です。そして、下界のトレーニングにもある程度の効果はあるものの、限度もあるということです。山道の下りは特殊な動作で、筋に大きな負担をかけます。しかもそれを長時間続けます。このため、下界でのトレーニングだけでは十分に改善しきれないのです。
下界のトレーニングだけでは不十分?
ところでこの図をよく見ていくと、次のようなこともわかります。たとえば、毎週のように山に出かけているのに、トラブルを起こしている人が1割ほどいます。このような人では、登山の量が足りないのではなく、山での歩き方が悪いと予想できます。今までの記事を参考に、歩行技術の改善に取り組むべきでしょう。 また、山にあまり行かないのにトラブルを起こしていない人も、6割くらいいます。その中には、脚筋力をすでに十分に持っている人、脚筋力はそれほどでもないが歩き方が上手な人、山のコンディションがよいときだけ登っている人、そもそもハードな山には行かないためにトラブルが起こらない人など、さまざまな人がいると考えられます。 つまりこの図一つを見ても、いろいろなタイプの人が混在していることが想像できるのです。その一人一人に対して必要なトレーニングを考えていく際に、「このメニューを実行すればよい」といった一律な説明の仕方では、個別性の原則を無視した乱暴な答えになってしまう、ということがわかっていただけると思います。 * * * 一人一人に対して必要なトレーニングは、どう考えたら良いでしょうか。次回は、登山のためのトレーニング計画のポイントを解説します。 登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術 安全に楽しく登山をするために、運動生理学の見地から、疲れにくい歩き方、栄養補給の方法、日常でのトレーニング方法、デジタル機器やIT機器の効果的な使い方などをわかりやすく解説。豊富なコラムで、楽しみながら知識が身につけられます!
山本 正嘉(鹿屋体育大学名誉教授)