心のふるさとへ贈る千通のラブレター ── 大阪で「わたしのマチオモイ帖展」
ふるさとや青春時代を過ごした大切なまちを、全国のクリエイターが冊子や映像で伝える「わたしのマチオモイ帖」を集めた展覧会が、大阪で開かれている。2011年の第1号刊行以来、今年は作品が千冊を超えた。既存の地域情報誌には盛り込まれない私的な体験、詩的なつぶやきに、ほろ苦い思い出も。体裁はシンプルでも、一冊の詩集や一篇の短編小説にも通じる意欲作が少なくない。
「生まれそうになったら黄色い旗をふる」
この展覧会は「わたしのマチオモイ帖 日本中がマチオモイ2015」大阪展。大阪市が運営するクリエイター支援施設「メビック扇町」(大阪市北区扇町)を会場に、大阪市、メビック扇町、「わたしのマチオモイ帖制作委員会」の共催で開催中だ。 マチオモイ帖は、ふるさとのまち、学生時代を過ごしたまち、今暮らしているまちなど、自身にとって大切なまちを、クリエイターたちが冊子や映像にまとめるもの。編集、文章、写真などの大半をひとりでこなす自主制作だ。 「生まれそうになったらみかんの丘にむかって黄色い旗をふる」――印象的な書き出しで始まるのは、「わたしのマチオモイ帖」第1号の「しげい帖」。大阪市のコピーライター村上美香さんが生まれ育った広島県尾道市因島重井町への思いをかたちにした。 瀬戸内海に浮かぶ因島で、実家は農家を営む。村上さんが生まれる際、臨月を迎える22歳の母と、心配しながらも畑仕事を休めない26歳の父が、ある取り決めを交わす。 『陣痛が来たら、黄色い旗を、みかん山に向かって振ります』『旗が見えたらすぐに駆け下りるから安心しろ』。若い父母の約束に守られて、村上さんは重井町の一員になった。一般的な地域情報誌とは一線を画し、個人の思いを重視する。手作りの「黄色い旗」は、「しげい帖」の編集方針を伝えるシンボルフラッグの役割も果たす。 「しげい帖」は手のひらサイズで、11年4月に完成し、重井町の町民たちに配布された。東日本大震災直後、クリエイターとして社会に何ができるかと自問していた村上さん。自分なりに導き出したひとつの答えだった。 「まちおこしは一朝一夕にはできませんが、まちを思うことはだれでも、今すぐでも始められます。人生を通じて社会から与えられたことを思い出すことも大切なことではないかとの考えから、『マチオモイ帖』と名付けました」(村上さん)