「片頭痛」予防の新薬の効果を医師が解説! アジョビ・アイモビーグ・エムガルティの特徴や違いとは
「アジョビ」「アイモビーグ」「エムガルティ」の特徴を医師が解説
編集部: 新薬の特徴について教えてください。 原先生: これらの新薬は「抗体医薬」と呼ばれるタイプの薬です。抗体医薬とは抗体を利用した医薬品のことで、抗体は特定の抗原を狙い撃ちする性質を持っています。この性質を利用し、片頭痛の原因となる物質をブロックすることで、片頭痛を予防するのです。 編集部: もう少し具体的に教えてください。 原先生: 片頭痛の原因は「CGRP」という物質です。CGRPは顔や頭の感覚を司る三叉神経の終末から放出されるペプチドです。これが放出されると血管が拡張したり、炎症反応が起きたりして、片頭痛の原因となります。エムガルティなどの新薬は、CGRPをブロックすることで、片頭痛の発作を減らしたり、発作の程度を軽くしたりします。 編集部: どのようにCGRPの働きをブロックするのですか? 原先生: 大きく分けて、2つのタイプがあります。まず、CGRPが神経から放出されても、働かないように抑え込むタイプです。エムガルティとアジョビがこのタイプに該当します。 編集部: アイモビーグはどのような薬ですか? 原先生: エムガルティ・アジョビと異なり、アイモビーグは放出されたCGRPの受容体、いわゆる窓口を閉じることで、CGRPが働けないようにする作用を持っています。放出されたCGRPは脳周囲の血管の平滑筋細胞に発現しているCGRP受容体に働きかけ、CGRPが働けないようにします。これにより片頭痛を予防できるという仕組みです。
片頭痛治療における注意点
編集部: 治療効果はどれくらい持続するのですか? 原先生: それぞれの薬剤によって異なります。エムガルティは毎月1回、アイモビーグは4週間に1回注射をすることで効果を持続させます。一方、アジョビは4週間に1回、あるいは12週間に1回注射をします。 編集部: どの薬剤を使うか、どのように選択すればいいのでしょうか? 原先生: いずれの薬剤も効果は非常に高いので、医師に相談して選択するのがいいと思います。アジョビのみ、12週間に1回注射をすればいいタイプの製剤もあるので、注射の手間を省略できるメリットがあります。ただし、いずれの薬剤も自宅で注入器を使って皮下注射することができるようになり、都度来院する必要がなくなりました。エムガルティは初回に2本注射しますが、その分、1カ月後の有効性が高く評価されています。アイモビーグは、作用機序が若干異なるのでエムガルティやアジョビが効かない場合などに考慮されます。 編集部: 効果はすぐに表れるのですか? 原先生: 薬剤にもよりますが、エムガルティは初月に2本注射をおこなうため、ほかの薬剤と比べて効果が出現するのが早いとされています。その分、価格が高めです。一般的には全ての薬剤において、効果が出るまで2~3カ月かかることがあるとされています。 編集部: 治療を中断した場合には、再発するのですか? 原先生: 薬剤の歴史はまだ浅いため、現在も研究途中ではありますが、使用した患者のうち約10%は片頭痛の発生をゼロに抑えられることがわかっています。その一方、治療を中断すると再発する人もいることはたしかですが、どのような人が再発しやすいのかは現在、研究中です。 編集部: 治療は保険適用ですか? 原先生: はい。ただし「飲み薬の予防薬を使っても月に4回以上片頭痛がある」あるいは、「副作用が強く、飲み薬の予防薬を使用できない」という条件を満たした場合に保険が適用されます。 編集部: 治療費はどれくらいですか? 原先生: 3割負担の場合、1万2000~1万3000円です。ただし、エムガルティのみ初月は2本分の費用がかかります。 編集部: 最後に、読者へのメッセージをお願いします。 原先生: これまでの片頭痛治療は「治す」のではなく、あくまでも「症状をコントロールする」ことに主眼が置かれていました。その意味で、これらの新薬は非常に画期的な薬剤と言えるでしょう。ただし、これらの治療を提供する医療者は限られており、「日本神経学会、日本頭痛学会、日本脳神経外科学会による専門医の認定を有していること」「頭痛を呈する疾患の診療に5年以上の臨床経験を有していること」などが条件として課されています。そのため、どこでもこれらの治療を受けられるというわけではないので注意が必要です。もし治療を受けたいと思ったら、念の為事前に医療機関へ確認することをおすすめします。