シルクロードの「闇」にも迫る特別展が大英博物館で開催中。宗教も拡大する巨大ネットワークの全貌とは?
シルクロードというと、西洋と東洋を結ぶ一本道の交易路というイメージが一般的だ。しかし今回の展覧会は、シルクロードがアフリカ、ヨーロッパ、アジアを縦横無尽に結び、数多くのネットワークを形成していたことに光を当てている。展覧会の共同キュレーター、スー・ブラニングは、US版ARTnewsの取材にこう答えた。 「この数十年間、(シルクロードの)複数のネットワークや、それがどこまで広がっていたか、誰と誰がどのようにつながっていたかについて盛んに研究されています。結果、さまざまなことが明らかになり、シルクロードに対する理解が深まりました。シルクロードが単なる東西間の貿易ルート以上のものだったことが分かってきたのです」 さらに重要なのは、シルクロードを行き来したのは、香辛料や砂漠の船と呼ばれたラクダだけではないことだ。ブラニングはこう付け加えている。 「調査を重ねるにつれ、数々のネットワークや南北方向にも広がる交易だけでなく、人や物、アイデアの移動など、商業以外の動きにも目を向けるようになりました」
アジアからアフリカ、ヨーロッパに至る交易や文化交流のネットワーク
展覧会は地域によって5つのセクションに分かれ、ウズベキスタン芸術文化振興財団、サマルカンド国立歴史博物館(ウズベキスタン国立歴史博物館別館)、スコットランド国立博物館(エジンバラ)、スウェーデン国立歴史博物館(ストックホルム)など、イギリス内外の29の文化施設から貸し出されたものを含む約300点の展示品を見ることができる。貴重な展示品の貸し出しには、タジキスタン国立博物館をはじめとした外国の政府機関との交渉を重ねる必要があったという。2019年から準備を進めてきたブラニングは、展覧会が実現した喜びをこう語った。 「本当に膨大なプロセスでしたが、一歩一歩進めてきました。そうした努力の甲斐がある展示だと、多くの人たちに思ってもらえることを願っています」
「中央アジアからアラビアへ」のセクションには、これまで見つかった中で最も古い象牙のチェスの駒があるが、これは西暦500年頃にインドで作られ、700年代にウズベキスタンで発掘されたものだ。インドが起源とされるチェスはシルクロードに沿って伝播し、ササン朝ペルシアで人気を博したのちイスラム世界、そしてヨーロッパへと広まっていった。また、エジプトのビーズ製ネックレスもシルクロードの広大さを象徴している。使われているのは、バルト海北部の琥珀、イランのカーネリアンビーズ、スリランカや南インドの細かな貝殻を含んだ緑色のガラスビーズなど、遠く離れた地域から運ばれた材料なのだ。 展示では、シルクロードが陸路だけではないことも示されている。その一例が、インドネシアのブリトゥン島近海で発見され、6万点を超える交易品が積まれていたと見られる9世紀の難破船だ。1998年に引き揚げられた品々の中からは、化粧品や薬を入れていた中東の小さなガラス瓶、スマトラの青銅鏡、中国の陶磁器などの宝物が展示されている。