G7サミット開催の「事実」アピールに執心の広島市、核抑止論に利用された痛恨の現実は直視せず
やはり、サミット効果で資料館の入館者数が増えたと説明している。わたしは挙手をし、資料館に来た人がサミットをきっかけとして広島を来訪したということを示すような客観的なデータ、例えば資料館によるアンケートとか、旅行会社による調査といった具体的な根拠があるのかどうかを質問した。答えはこうだった。 「それはやってないと思いますけどね。先ほど申し上げたのは私の受け止めということで、物的な証拠があるわけでありません」。あっけにとられたが、つまり、具体的なファクトに基づかずに「広島サミットで資料館の来館者、つまり広島に来る人が増えた」と言っているとわかった。「大国」の首脳が広島で一堂に会した、その事実をレガシー化したいのだろうが、勝手な解釈ではないだろうか。 ■ 根拠をひねり出す市職員も 資料館の担当者や、資料館を所管する市の平和推進課の担当者にも尋ねてみたが、客観的なデータはないとのことだった。その中で、市の担当者が「個人的な肌感覚」と断ったうえで語った説明は、とても興味深かった。 G7サミットの期間中、各国首脳が資料館を訪れ、それが全世界にニュースとして伝えられた。一方で、その近くにある国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の中には入らなかった。首脳が訪れた資料館の入館者は過去最高となったが、各国首脳が訪れなかった祈念館は入館者が過去最高になるほどは増えなかった。このことからも、資料館への関心の高まりはサミットが理由ではないと言うほうが逆に難しいのではないか――。 こんな、無理のある説明をしてまで、「サミット効果」を肯定しなければならないのか、と考えるといささか切なくなるほどだ。 核保有国であるアメリカ、イギリス、フランスと、核の傘の下にあるドイツ、イタリア、カナダ、そして日本の首脳が打ち出した共同声明「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」は、「我々の安全保障政策は、核兵器は、存在する限りにおいて、防衛目的の役割を果たし、侵略を抑止し、戦争及び威圧を防止すべきだとの理解に基づいている」と宣言した。核抑止論を肯定する文言にほかならず、それは、広島が長く世界に向けて訴えてきたメッセージとは真逆のものだった。 「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!」と、資料館の芳名録にそう記したアメリカのバイデン大統領は先月、核爆発を伴わない臨界前核実験を行ったと発表した。核兵器をなくせる日に向けて進むどころか、それとは逆方向に進んでいる。「サミット効果」はどこにあるのだろうか。 そんなサミットであったにもかかわらず「広島を訪れた人が増えた!」と、根拠もなく、誰が言えるだろうか。