新トレンド「AIエージェント」でカギとなる要素は何か? 長谷佳明
一方で、セールスフォースやアントグループの萌芽事例からは、他社の追随を難しくする一手が見えてくる。具体的にはコンテンツとデータである。AIエージェントは、ユーザーの目的を達成するための戦略を考え、そして、戦略をタスクのステップ、つまりはプロセスに落とし込んで遂行する。AIエージェントの優劣を決めるのは、戦略で選択可能なタスク(AIエージェントが代行できること)の多様性である。 セールスフォースがパッケージとして作り込んできた膨大な業務機能や、アントグループがアリペイの上に築いてきたミニプログラムのエコシステムがAIエージェントにとって他社にないコンテンツとなる。AIエージェントはコンテンツなくして成立せず、既存のコンテンツをいかに生かすかが、AIエージェントの価値を決める。 ◇間違いなく次のブームに そして、データとは何か。AIエージェントが、目的に応じて取るべき戦略も、無数の選択肢が考えられる。この選択肢からどの戦略がよいかを決定しなければならない。戦略は、生成AIが思考するとしても、それを定量的に評価するのは、生成AIではなく、データ分析AIである。セールスフォースにとっては、CRMのデータが戦略を評価する上での貴重なデータとなるし、アントグループにとっては、アリペイを通じて蓄積されたユーザーの行動データがある。戦略を生かすも殺すもデータ次第といえる。 AIエージェントは間違いなく次のブームになる。ただ、まるで空き区画ばかりで残念なショッピングモールのごとく、見栄えが良く形ばかりのAIエージェントも登場するだろう。 かつて一世を風靡した、AmazonGoのような「レジなし店舗」も、期待していたほど広まっていない。小売業にとって技術導入のコストが課題としてあるものの、他業種から参入したケースでは、肝心の商品の品ぞろえに問題があったり、店舗管理がずさんで商品が売り切れであったりするなど、技術ばかりが目立ち、中身が乏しい状態が散見された。
AIエージェントの真価を決めるのは技術ではない。コンテンツとデータである。 (長谷佳明氏・野村総合研究所エキスパートストラテジスト)