ジェーン・スー「仕事を始めてから、できることが増えれば増えるほど、できないことが鮮明になった。稲穂が頭を垂れるときに気づくこと」
◆淡々と誠実に 稲穂のたとえで言うなら、「学徳が深まると」と「かえって他人に対し謙虚になる」のあいだに「自分の代わりなど大勢いることがわかって」が入ると知る瞬間。そこに至ると、仕事の発注書には書かれていない、善意と健全な好意をもって相手に接することが大きな違いを生むことを知る。ここで卑下のターンに入ると、チャンスのループからは永遠に外れる。 へりくだれ、おもねれ、という話ではない。あなたが私を気にかけてくれていることを、あなたが私に期待をもって接してくれていることを、私は心から感謝しているという態度を常に示す必要があるという意味だ。なぜなら、それは相手を安心させ、幸せな気持ちにさせるから。メールで使う言葉ひとつ、挨拶ひとつに謙虚かつ繊細な態度は宿る。言わなくてもわかるでしょ、は恋愛や家族といった人間関係同様、通用しない。ここを理解している人には次から次へとチャンスが到来し、一足飛びに階段を駆け上がっていく。定量化できない、目に見えぬ感情の動きが次の好機を引き寄せるから。 こういう話をすると、人たらしみたいなことはできないと不満げな顔をする人がいる。不器用だから、とも。ならば仕方がないと私は思う。そこを加味して掬い上げてくれる人など、少なくとも仕事の場ではそうそういないけれど。 自分にしかできないことを見つけようとした人が、そんなものはないと知る時、稲穂は頭を垂れる。目の前のことを淡々と誠実にやり続けるしか手はない。
ジェーン・スー
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