黒木華主演「アイミタガイ」短編集をどうやって長編映画に? 構成を大胆に変えてテーマがより明確に 「原作どおり」と思わせてくれる幸せな映画
推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は短編集を一本の長編に再構成したこの映画だ! 【キャスト一覧を見る】黒木華、中村蒼ら 映画版「アイミタガイ」のキャストを見る
■黒木華・主演! 「アイミタガイ」(ショウゲート・2024)
いい映画だったー。どこかピンポイントでぐちゃぐちゃに泣くというのではなく、気づいたら後半ずっと静かで温かな涙がこぼれてたみたいな、そんな映画。そして見終わったあとの温もりがじんわりと沁みるような気持ちは、原作小説の読後感とまったく同じだった。 原作は中條ていの同名小説『アイミタガイ』(幻冬舎文庫)。大好きな小説だったので映画化の話を聞いて嬉しかったのだが、同時に疑問にも思った。だって原作は短編集なのだ。登場人物にゆるいつながりはあるが(そしてそのゆるいつながりこそこの話のポイントなのだが)、話自体はそれぞれ独立しているのである。それを一本の映画にするの? どうやって? とりあえずは原作から紹介しよう。本書には5つの短編が収録されている。 第1話「定刻の王」は、電車通勤のサラリーマンの話。ある日、いつも電車で一緒になる中年男性が座席ですっかり寝入っていることに気づく。そろそろ降りる駅のはずだが、知り合いでもないのに声を掛けるのもはばかられる。そして彼がとった方法は──。 第2話「幸福の実」は訪問ヘルパーが主人公。ウェディングプランナーをしている姪からピアニストを探していると相談され、自分の訪問先の老婦人を思い出す。しかし気難しい人物なので引き受けてくれるとは思えず──。 第3話「夏の終わり」は、カメラマンの娘を事故で亡くした夫婦の物語。娘の死後になって初めて、娘が生前、児童養護施設の子どもたちと交流を持っていたことを知る。 第4話「ハートブレイク・ライダー」は中学受験に失敗した小学生の話。同じ塾に通う友人たちが志望校に合格する中、どうしても報告に行く気になれず──。 そして第5話「蔓草」は、親の離婚の影響で結婚に踏み切れないヒロインが父方の祖母を訪ねる話だ。ところが祖母の家で、父が新しい家庭でもうけた腹違いの弟と出会う。気まずい思いをする中、隣家で小火が起きて──。 すでに映画を観た人は各話の説明を読んで、なるほど、と思ったのではないだろうか。映画はこの5篇の中から第4話を除く4篇を絶妙に組み合わせて一つの物語にしていたのだ。
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