渋沢栄一&津田梅子&北里柴三郎の新紙幣「へ~っ」と言っちゃう雑学
日本人は勤勉だと海外の人に言われることが多いですが、その勤勉さを体現した人物なのですね。旧1000円札の野口英世も北里と同じ細菌学者ですが、ふたりはどのような関係ですか? 「これはあまり知られていないのですが、北里は野口の師匠なんです。北里は海外で活躍した後、日本で福沢諭吉の援助を受けて伝染病研究所を設立します。彼はそこで多くの研究者を採用していますが、その中のひとりが野口英世です。 北里も野口もノーベル賞を取っていないから、私としては北里が野口よりも先に1000円札になるべきだったと思っています」 では、なぜ北里より野口が先に評価されたのでしょう? 「その原因のひとつには、北里が自分の研究にあまりに誠実だったことが関係しています。かなり前ですが、ある研究者が実際には存在しない細胞があると言ったことが大問題になりましたよね。 北里の場合はあの事件のまったく逆です。彼はペスト菌を発見したことでノーベル生理学・医学賞の候補になっているんですけど、自分の研究に少し不備が見つかったからと、研究成果を正直に取り下げたりするタイプ。黙っていたらそのまま評価されていた可能性もあったろうに、そうはしない。 彼は自分の研究に真摯に向き合っていて、少しでも嘘をつくことが許せなかったんです。後にアメリカのロックフェラー医学研究所に所属し、アフリカでも黄熱病の研究で世界的な名声を得た野口に比べ、このようなことが、日本での知名度に関係しているのかもしれません」 科学の現場で、ないものをあると言ったら大問題ですもんね。 歴史講師として、今回の肖像の人選は妥当だと思いますか? 「妥当だと思います。私は世の中は経済力だと思っている。すべてが金ではないけれど、やはり世界は金で動いている。そのような意味で、経済界の偉人である渋沢が1万円札なのは現代社会に非常に適しています。 次に津田梅子ですが、女性は樋口一葉に続き絶対に選ばれるべきだと思うので、適任だと考えます。さらに彼女が教育者であり、文理どちらにも精通していることも今の時代にマッチしています。 北里柴三郎ですが、新型コロナウイルスで感染症への意識が高まっている現代で、彼は日本の医療分野での功績を代表する人物としてぴったりだと思います」 最後に各偉人の金額には何か意味があると思いますか? 「私は誰を1万円札にして、誰を1000円札にするかというのは、あまり重要でないと考えています。正直、3人の偉人に順位はつけられない。なので、皆さんには3人の偉人をフラットに見て、その雑学や裏話を素直に楽しんでほしいですね」 ●伊藤賀一(いとう・がいち)1972年生まれ、京都府出身。東進ハイスクールなどを経て、リクルートが運営するオンライン予備校『スタディサプリ』で日本史や倫理、政治経済などを幅広く担当し"日本一生徒数が多い社会科講師"と呼ばれる。著書・監修書は75冊。最新刊は『いっきに学び直す 教養としての西洋哲学・思想』(佐藤優氏との共著、朝日新聞出版) 写真/時事通信社 イラスト/福田嗣朗