井上尚弥がまた怪物伝説。両拳を痛めながらもダウンを奪い大差V2!
それでも、場内のインタビューでは「期待を裏切ってすみません。母の日にみっともない」と、KO勝利を見せることができなかったことを謝った。拳のことは黙っていた。試合後もメディアが執拗に聞き出すまで、右拳に異変が起きたことを喋ろうとしなかった。言い訳無用。プロの矜持である。 「左手一本だったが、ランキング1位とのレベルの差はみせつけられた。でも、力の差をみせつけることができずに悔しい。やろうとしたことも、全然できなかった。これくらいならばもらっていいか、という気持ちがあってパンチも結構もらった。そこも今後は徹底して直していかなくちゃいけない」 右の目尻とホオに傷を作った井上は、その痛めた右拳も真っ赤に変色していた。 驚いたのは、試合後、敗者に井上が痛めた右拳の異常に気がついていたか?と聞くと、「ノー」「気がつかなかった」と答えたことである。「私ほど井上選手を苦しめた選手はいない」と言ったが、ハンディキャップマッチだったことを知らずに戦い続けたのだ。大橋会長も、「1ラウンドを見たときに、この試合は、すぐに終わるなと思ったんだが……これから先も、こういうことは、どこかで起きるかもしれないし、いい経験になった。尚弥は責任感の強い男だ」と、その強靭なメンタルを称えた。 怪我をしても勝てるのだ。23歳の2階級王者に皮肉屋の筆者でさえ、怪我を差し引くと、ネガティブな要素を探すことはできなかった。 元WBA世界Sフライ級王者の飯田覚士さんは、左手1本の試合の中にも進化の跡が見えたという。 「井上は、これまでステップバックを主にしたディフェンスだったが、この日は、ヘッドスリップやスウェー、ブロックなど、より相手との距離が近い中での新しいディフェンス技術を見せた」 ただ、課題もあって「右手が使えないとしても、防御に気持ちが傾いている相手をどう崩して、どう形を変化させるのか、という工夫が足りなかった。フェイントや、相手を前に出す誘い、ガードの形を変えるパンチなどをもっとあれこれ繰り出しても良かったのでないだろうか」と言う。 さて井上の次戦は、前WBO同級王者、ナルバエスとのリターンマッチとなる。2年前に井上が2ラウンド衝撃のKO勝利でベルトを奪ったアルゼンチンの40歳になるレジェンドである。 心配なのは、痛めた右拳の回復状況だが、「単なる打撲。自分の感覚的には長引かないと思う」と井上。ナルバエス戦に関しては「再戦なんで、あれ以上のインパクトを与えたいけれど勝ちに徹したい」と語る。 開催場所は、日本になるのか米国か、まだ未定だが、井上の名が、井上からINOUEに変わる大きな舞台となることは間違いない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)