【内田雅也の広角追球】阪神全1万1333試合のスコアを集計すると――猛虎党デザイナー作成の光の得点図
【内田雅也の広角追球】今年の阪神は得点力不足に泣いた。0―1での敗戦が7試合。これは例年と比べて多いのか少ないのか? 阪神ファンの大森正樹さん(57)は浮かんだ疑問から、調べてみた。球団創設初年度の1936(昭和11)年から今年まで89年間すべての公式戦のスコアを集計、分析した。何と全1万1333試合ある。0―1敗戦は265試合あった。1年平均2・9試合である。「やはり今年は得点力不足のシーズンだった」 総得点は4万3709点だった。1試合平均3・86点である。平均失点は3・68点。これを年度別に折れ線グラフにした。 さらに月日別の得点を黒地に黄色い円の大きさで示してみた。インフォグラフィックである。すると銀河のような星々、得点の光が浮かびあがった。 大森さんは車両デザインや路線図などを手がけてきた鉄道デザイナー。鉄道設計技士、日本デザイン学会会員だ。2005年から毎年、愛する阪神の詳細なデータを基にデザインしたカレンダーを自主製作している。 2025年度版カレンダーのテーマは今季の得点力不足から「得点」とした。公認野球規則の冒頭に<各チームは、相手チームより多くの得点を記録して、勝つことを目的とする>とある。野球の根幹部分で、明治初期に野球に親しんだ俳人・正岡子規独自のスコアカードにも○印で得点が記されていた。 野球史家と言えるノンフィクション作家、佐山和夫さん(88)は野球の特徴として、「人が得点する」をあげている。サッカーやバスケットボールなど他の球技で得点を刻むのはボールだが、野球では走者が本塁に還って記される。「だから人間的」で、これは高校野球・甲子園塾の歴代塾長、尾藤公さん(故人=元箕島高監督)や山下智茂さん(79=元星稜高監督)らが語ってきている。 そんな得点(および失点)に関するデータを各種盛り込んだ。 阪神のスコアで最も多かったのは2―1で374試合あった。以下、2―3(352試合)、3―2(350試合)、1―2(343試合)……と続く。 ロースコアが多いのは広い甲子園球場を本拠地とする阪神の特徴だろうか。大森さんは「他球団は調べていませんが、全試合を見渡すと似たような数字になるような気がします」と話した。 日付順に得点を記録していく過程で、大森さんは「無秩序のなかに、不思議な配列を発見した」と笑いながら話した。「何試合も同じ得点が並んだり、豚まん(551)や英国のスパイ(007)が隠れていたり……」。遊び心で、そんな数字の配列を赤枠で囲んでいる。 そんな得点の光の銀河の上にカレンダーを配した。裏面には阪神在籍選手の個人別得点をデザインして並べた。 歴代最多は鳥谷敬の992。以下、吉田義男900、掛布雅之892、金田正泰881、藤村富美男871……と続き、現役では近本光司478が16位、大山悠輔443が20位にランクインしている。 膨大なデータを調べあげた大森さんは「結論」としてカレンダーの片隅に記した。「得点は多いに越したことはない。そんなん、なんぼあってもいいですからね」(編集委員) ◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大卒。来年3月で野球記者生活丸40年。2007年4月スタートの阪神を追うコラム『内田雅也の追球』は来春から19年目を迎える。