始まった「移民逆流」…米国はトランプ、欧州は極右台頭で大量帰国 H5N1パンデミック発生でグローバル化にトドメ
2025年はトランプ政権の発足により米国で移民の大量強制送還が始まるとみられるが、極右が台頭する欧州でも移民排斥ムードは急速に高まっている。グローバル化を支えてきた国境を越える人の動きが、これから劇的に「逆流」する可能性がある。鳥インフルエンザ(H5N1)のヒトへの感染拡大も懸念されており、パンデミックが発生すればグローバル化にトドメを刺しかねない。 【写真】“移民逆流”は起こるか?「不法移民増加のグラフ」を前に演説するトランプ氏 (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー) 冷戦終結後、グローバル化が進展し、国境を越える人の移動が急拡大した。 世界銀行によれば、外国に居住する世界の移民数は2023年、3億人の大台を超え、21世紀初頭に比べて5割以上増加した。 「人が国境を越えるグローバル化の流れは今後も止まらない」と言われているが、筆者は「世界の移民数は今後、減少に転じるのではないか」と考えている。 その理由として最初に挙げられるのが、各国の移民に関する対応の変化だ。 世界に冠たる移民大国である米国で「不法移民数百万人を強制送還する」と主張するトランプ氏が大統領に返り咲く。実はバイデン政権も2023年10月から昨年10月末までに不法移民27万人以上を強制送還した。過去10年間で最大規模だ。 欧州でも移民に対する風当たりが強くなっている。 今年2月に総選挙が実施されるドイツでは、厳格な移民政策を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が世論調査で20%近い支持を集めている。極右だと揶揄されることが多いAfDだが、移民に関する主張はメルケル氏が2005年に首相になった頃の与党「キリスト教民主同盟(CDU)」とあまり変わりがない。 フランスでも「これ以上移民を受け入れるべきではない」との回答が48%に上ったとする世論調査結果が出ている。
■ 「不都合な真実」にもう耐えられない 移民政策を180度転換したのはスウエーデンだ。移民の出国を促すため、来年から自主帰国を決めた移民に対し、1人当たり最大35万クローナ(約490万円)を給付する。移民の増加による治安の悪化に加え、経済面でのデメリットも明らかになっていることが背景にある。 米ハーバード大学のジョージ・ボーハス教授は「移民の受け入れは格差の拡大を招く」と主張している。2015年の米国のデータに基づく推計によれば、移民に帰属する分を除くと経済全体への貢献分はわずか0.3%に過ぎない。 移民の影響で労働者の取り分は3%減少する一方、企業の取り分は3%増加している。労働者の間では低所得者の打撃が大きい反面、高所得者はメリットを享受する。 だが、厳密な実証分析が出る前からこの「不都合な真実」はわかっていたと思う。 米国でも西欧でも、かつてリベラル政党は支持基盤だった労働者の利益を守るため、移民受け入れに後ろ向きだった。だが、グローバル化が進むにつれて、リベラル政党は労働者の利益を守るという本分を忘れ始め、今や大企業やエリート層の利益を代弁する存在となってしまった感がある。 ロシアのウクライナ侵攻後のインフレが先進国の低賃金労働者に与えるダメージも計り知れない。ダブル・パンチに見舞われた彼らの怒りが、移民政策の揺り戻しを引き起こす可能性が高いのではないだろうか。 筆者は「移民の流れを抑制する潜在的なリスクもあるのではないか」と危惧している。 念頭にあるのは、新たなパンデミックの襲来だ。