「なぜ人は貯金できないのか」──40億円調達のスマートバンクが仕掛ける“家計改善”の全体像
銀行になりたい? 今後のあるべき姿
B/43はユーザーのお金を預かることで、AIによる分析から実際の支出管理までを実現できる。ただしこれはあくまでプリカを通じた支出に限ったものだ。現金や引き落とし、振込などの支出まで管理できるわけではない。その先を考えたとき、自然と行き着くのは銀行サービスになるだろう。 実際、業界最大手の家計簿管理サービスを提供するマネーフォワードは7月、三井住友カードと資本業務提携を発表。銀行機能を備えた家計簿サービスへの進化を目指している。 スマートバンクの堀井CEOも「完成形は銀行」と認める。口座間での資金移動や、デジタル給与の受け取りなど、お金を預かる機能をより強化できれば、家計管理の可能性は広がる。しかし、同社はあえて銀行免許の取得は目指さない。「銀行になれば制約も多い。むしろ、さまざまな金融関連の免許を組み合わせながら、銀行に近い機能を実現していく」という。 実際、銀行の機能は個別の金融ライセンスである程度代替できる。お金を預かり、決済を行う機能は、前払式支払手段や資金移動業の免許で、制約はあるものの実現可能だ。Fivotが運営するプリカサービスIDAREのように、前払式支払手段で利息のようにポイントを付与するサービスも登場している。給与受け取りについても、資金移動業者による「デジタル給与払い」の制度が始まり、すでにPayPayが参入した。 このように、銀行免許を持たなくても、複数の金融ライセンスを組み合わせることで、銀行の主要機能それぞれを実現することが可能だ。むしろ銀行よりも柔軟なサービス設計ができる可能性もある。スマートバンクは、この戦略で銀行に迫る機能を実現しながら、独自の家計管理サービスを追求していく構えだ。
資産形成支援へ将来展開
この先、スマートバンクが描く将来像は、お金を預かる仕組みとAIを組み合わせた、新しい金融プラットフォームの構築だ。その展開は3段階で進む。 まず、AIを使ってファイナンシャルプランナー(FP)の代替を目指す。これまでFPに相談して作っていたライフプランを、AIが個人の状況に応じて提案する。複数の金融ライセンスを持つ同社ならではの機能として、提案したプランを実際の資金移動で実現することも視野に入れる。 次に「AI貯金アシスタント」を展開する。一定額を貯金に回す単純な仕組みではない。AIが収支パターンを分析し、その月の状況に応じて最適な貯蓄額を自動的に振り分ける。お金を預かれる強みを生かし、提案を確実に実行に移せる点が特徴になるという。 さらには「AI投資アシスタント」の導入も計画する。株式投資や仮想通貨など、多様な投資手段へのサポートを視野に入れる。分析から実行までを一気通貫で提供することで、投資のしきいを下げる狙いだ。 収益モデルも進化させる。現在の主な収入源は、カード決済時の加盟店手数料と後払いチャージの手数料、そしてユーザーへの直接課金だ。当面は決済手数料を中心としながら、金利収入と課金収入を加えた3本柱での収益構造を目指す。特に今回のAIサービスは、課金収入の拡大につながると期待する。 「フリマアプリはスマートフォンという新しい技術で、解決できなかった問題を解決できた。家計管理も新しい技術が解決のカギになる」。堀井CEOは、かつてフリマアプリの開発に携わった経験を振り返る。30以上の家計簿アプリが存在してもなお解決できなかった家計管理の課題。それを解くカギは、新たに台頭したAIにあるという。 お金を預かり、AIで分析から実行までを支援する──堀井CEOは金融サービスの本質的な進化に賭ける。プリペイドカードから始まった挑戦は、より大きな構想へと歩みを進めている。かつて堀井CEOがITmedia NEWSに語った“エグい学びの先”は、いったいどう結実するのだろうか。
ITmedia NEWS