ニセ地主の「ひとこと」で地面師詐欺が発覚…「積水ハウス事件」を間一髪で回避した不動産会社が気が付いた「違和感」
営業マンの会話でニセモノと判明
「ニセ佐妃子さんの写真付きのパスポートのコピーを持ち歩いていた不動産業者は何社かありましたね。ある不動産会社の営業マンたちが手にしていたのは、2008年に作成されたパスポートでした。パスポートの写真を持ってきて『これは海老澤佐妃子さん本人ですか』と確認して歩いていました。またなかには、弁護士事務所の会議室で撮影されたという彼女の写真まで持ちまわって本人かどうか確認してほしいという会社もありました。もちろんそれらの写真は佐妃子さんとはまったく似てない。それで『ぜんぜん違うよ』と言ってやってね。実はそれでおかしいと気づいた業者も多かったんだよ」 町内会の役員は、「ニセ地主を面接した不動産業者までいたんだよ」と次のような裏話までしてくれた。 「ある不動産会社は、仮契約寸前までいって、実際、写真の女性とも会った、と言っていました。指示どおり、ビルの会議室に連れて行かれると、佐妃子さんを名乗る女性には、白髪の弁護士と10人ほどのいかつい男が付き添っていたらしい。女性はほとんど口を開かなかったので、その場の会話はなかったみたい。ところが、不動産会社の営業マンが、たまたま帰りのエレベーターで、佐妃子さんを名乗る女性と乗り合わせたようなんだよ、それでねぇ……」 くだんの不動産会社の営業マンが、ニセ海老澤佐妃子の嘘に気付いたきっかけが、エレベーターでの会話だった。以下のようなやり取りをしたという。 「私の田舎の茨城県には、桜のすごく綺麗な場所があるのです。ちょうどこれからが見ごろになるので、たまには田舎に帰ってあの桜が見たいな」 営業マンが彼女にそう話しかけた。すると意外な返事が返ってきた。 「私の田舎にもね、桜の綺麗なところがあるのよ。私も帰って桜が見たいわ」
積水ハウスは見抜けなかった
本物の海老澤佐妃子は五反田の旅館育ちであり、他に故郷はない。このひと言のおかげでくだんの不動産会社は仮契約寸前のところで思いとどまったという。「それでことなきをえたんだよ」と町内会の役員は、こう笑った。 「営業マンが会社に戻ったあとでその話になって、怪しいと気づいたんだ。でも、積水ハウスは違ったんだな」 海喜館の取引は、すでにこの段階で計画した内田らから小山らにバトンが渡されていたものと思われる。そこで小山たちは、手当たり次第に開発できそうな不動産会社に話を持ち込んだ。他の会社は不審に感じて契約までいかなかったようだ。こうして最後に残ったのが、積水ハウスだったのである。 『登場人物のほとんどは騙された「被害者」…“地面師事件”の捜査を難航させる「複雑すぎる」手口』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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