高円寺はどのようにして「古着の街」になったのか?
高円寺に古着屋が増えた理由
ヌードトランプは高円寺の人気古着屋としての地位を確立し、その成功に吸い寄せられるように高円寺に古着屋が増え始めました。その追い風となったのが、1990年代に訪れたヴィンテージ古着ブームです。1980年代中盤からセレクトショップスタッフなどのファッション関係者の間で存在感を増していたヴィンテージ古着人気は、1990年代に入るとメンズファッション誌「ブーン(Boon)」が大きく取り上げたことも影響し、マス層に拡大して全国的なブームとなりました。村松さんは、高円寺に古着屋が増えた理由をこう分析しています。 「たぶん昔、ピンク街みたいなところに小さいスナックがいっぱいあって、そのハコの借り手がいないから、若くて金のない奴らがバンバン借りちゃったんだろうね。中野だと、ブロードウェイより向こう行かないと安い物件はないけど、高円寺阿佐ヶ谷は駅からすぐのところに安い物件がある。だからお客さんも比較的わかりやすくてすぐ来れちゃう。そこに居心地の良いユルい空気が漂うんじゃないかな。(「たのしい中央線」より引用)」 高円寺にはスナックや居酒屋などの飲食店の他にも、学生向けの木造賃貸アパートや、裏通りの細い街路にある雑居ビルの一室など、賃料が安く古着屋が出店がしやすい物件が数多くありました。 そんな高円寺ならではの特色は、今も変わっていないようです。現在、そしてこれからの高円寺の古着屋事情について、2023年に弱冠21歳で高円寺に古着屋「ダート・ヴィンテージ・クロージング(DIRT Vintage Clothing)」をオープンした齋藤綾馬さんにお話を伺いました。 齋藤さんが古着屋を高円寺に出店した理由として、学生時代から客として高円寺の古着屋に通っていて愛着があったことに加え、高円寺の物件の賃料が安いことも大きかったと話します。齋藤さんによると高円寺の賃料の相場は下北沢の約半分から3分の1。ある程度の規模感の街で、約10万円の家賃で古着屋が営めるのは、東京で高円寺だけだそうです。 ではなぜ、高円寺の物件の賃料はそんなにも安いのでしょうか?その理由は、高円寺の都市計画にありました。高円寺は駅の近辺でも区画整理が徹底されておらず、老朽化した木造建造物の建て替えも進んでいません。そういった物件は、賃料が安価になる傾向があります。 また、高円寺の物件オーナーの多くは裕福な年配者で、昔ながらの高円寺らしさを大事にする気風が強く、賃料を値上げするよりもチャレンジをする若者を応援したいと考える人が多いと、齋藤さんは語ります。このような理由により、高円寺では開業資金が少ない若者でも新規参入がしやすい、古着屋に適した物件が供給し続けられているのです。