ありそうでなかった「左利きの道具店」 売上4倍、インサイト捉えた企画開発力
左利きの店長自ら商品を選び、メーカーとの協業でオリジナル商品を開発する「左ききの道具店」。ポジティブさを打ち出した世界観とネーミング、ありそうでなかった品ぞろえが特徴だ。ECとリアルを通じた顧客接点づくりと企画開発力で、ものづくりとブランドを結びつける。 【関連画像】左ききの手帳の中面。月間カレンダーの日付の数字が枠内の右上に置かれ、左手で書いた時に隠れないようにしている( 画像/LANCH) ECをメインに展開している「左ききの道具店」は、左利きのユーザーに向けた文具、雑貨を販売。2018年8月の開業以降、国内外の各地のメーカーや産地の工場などから仕入れた商品を販売するほか、メーカーと協業して開発したコラボ商品を取り扱う。 21年には、オリジナル商品のブランド「HIDARI(ひだり)」を立ち上げ、販売している。店全体の売り上げは19年度から23年度にかけて4倍以上伸長したという。 HIDARIでは毎年新作を発売している「左ききの手帳」を筆頭に、左利きの手帳用の「ハードカバー」、左右兼用の「定規」「ユニバーサルメジャー」、そして左利き用の「三徳缶切り」を次々に開発し、販売してきた。 百貨店などでのポップアップショップも展開し、大阪市の「阪神梅田本店」や奈良市の「奈良 蔦屋書店」など各地で10回以上開催。23年以降は岐阜県各務原市内に実店舗も営業している(営業は不定期)。 ●左利きの店長が商品を目利き 運営するのは、左ききの道具店の他にも商品開発や企業のブランディングを支援するLANCH(ランチ、岐阜県各務原市)。左ききの道具店の店名はコピーライターでLANCH代表の加藤信吾氏が名付けた。 店名、ロゴと同じタイミングで、イメージキャラクターの「シロクマ」を考案。「ホッキョクグマは全員左利き」という、氷雪地帯の先住民であるイヌイットの言い伝えにちなんで決めた。 EC、実店舗どちらも、ハサミや包丁などの刃物や定規、万年筆といった文具、雑貨をはじめとする色とりどりの「道具」をそろえる。店長の加藤礼氏(以下、加藤氏)自らも左利きで、「自分が使いたいもの」を選び、販売している。 店のコンセプトは「左利きさんにうれしい道具のお店」。左利き用と言っても「面白グッズ」のようなものではなく、実用的な道具を集めている。 運用するSNSではユーザーとのコミュニケーションも活発だ。同店のX(旧Twitter)のフォロワーは1万6000人を超える。 新型コロナウイルス禍による外出制限が緩和されてからポップアップショップの店頭に出るようになり、訪れた顧客やユーザーと直接コミュニケーションを取るようになった経験から、実店舗を開いた。 顧客層は左利きの人を中心に、左利きの人にギフトを贈りたい人や、家族に左利きがいる人など。キッチン用品や文具をそろえるために新生活を始めるタイミングで訪れる人も少なくない。左ききの道具店では「左利きにこだわりすぎない」ことも掲げており、右利きの人も使える両利き商品も豊富だ。 ●「右利き用の逆」だけでは駄目 左ききの道具店が自社のオリジナル商品の開発を始めたのは、仕入れるだけでは「欲しい」商品が見つからないことが出てきたためだ。HIDARIの目玉商品である左ききの手帳も、国内にも海外にも使いたいと思う左利き向けの手帳がなかったことが理由だった。 左利き用の商品開発の「壁」は、主に開発費と生産ロット数だ。 右利きと左利きの割合は約9対1といわれる。右利きの人が使う製品は大量生産により価格を下げられる。だが、左利き用はそれが難しい。 さらに、「左利き用」という珍しさではなく品質やデザイン面での充実を図ると開発費がかさみ、割高な価格設定となってしまう。手帳の場合は、すべてのデザイン要素を左利き用に反転しただけでは使い心地のいいものにならないと感じていたため、協業先探しは難航した。 そうした中、偶然Xで老舗の手帳メーカー菁文堂(せいぶんどう、東京・台東)が「左利き用の手帳ってどうなのか」と投稿。それを見た加藤氏がすぐに連絡を取ったことを機に、協業が始まった。 既に季節は秋に差し掛かっていたが、駆け足で開発。菁文堂の勧めで19年11月から12月にかけて実行したクラウドファンディングで「達成率214%」を記録。19年末に「左ききの手帳2020」の発送にこぎ着けた。 商品企画においては使い心地を追求するため、加藤氏を中心に左利きの当事者ならではの不便さを検証しながら打ち合わせた。まず、レイアウトはウイークリータイプの手帳の中で一般的な「週間レフト」と呼ばれる型の手帳を参考にした。左ページに週カレンダー、右ページにメモ欄を配置したタイプだ。 一般的な手帳は右利きの人向けに左開きでつくられている。これを左利きの人が左手の親指の「はら」でパラパラとめくると、巻末から遡るようにしてページを探すことになり、違和感を覚えるという。