紺野美沙子「能登半島地震で富山のマンションは断水、食器類もほぼ全滅」自然災害に関して《過小評価》してしまう「正常性バイアス」に気を付けて
◆恐怖を感じるレベルの大雨が増えている 紺野 自然災害は地震だけではないですね。今年も5月に季節外れのゲリラ豪雨がありましたが、降り方がもう昔と違う。恐怖を感じるレベルでした。 矢守 過去、1時間に数十mm程度しか降らなかった場所で数百mmという天の底が抜けたような雨が降ったり、入道雲が数十~数百kmにわたって線状に連なる線状降水帯の下では、大量の雨が長時間降り続く。想定外の雨量が大きな被害をもたらします。 紺野 最近の大雨被害は、日本各地で起きていますね。 矢守 その典型的な例としては、2018年7月に岡山県などを中心に被害が出た「西日本豪雨」。倉敷市真備町では51人の方が亡くなりました。 もともと岡山県は「晴れの国」と言われるほど雨が少ない地域。それまで経験したことのない大雨に見舞われました。豪雨に慣れておらず、備えがない地域にも浸水や土砂災害などが発生する恐れがある。「想定外」は起こりえます。 紺野 都会や近郊では相変わらずの建設ラッシュで、あちこちに新築のビルが建てられていますが大丈夫なのでしょうか。 矢守 最近まで海や田んぼだった場所を埋め立てて開発している場所ですね。よく「水は覚えている」という言い方をするのですが、人間が少々手間をかけて堤防や防波堤を作ったり埋め立てたりしても、水はやっぱり昔のことを覚えているんです。 紺野 水は覚えている──。なんだか怖い言葉。 矢守 川や田んぼだった場所に水は行きやすいし、海だった場所には高潮や津波といった形で水が戻りやすい。そういった土地では、いっそうの注意と備えが必要でしょう。
◆「50年大丈夫だから」が通用しない時代に 紺野 最近はニュースや天気予報を見ていても、「これまでに経験したことのないような大雨」とか「数十年に一度の大雨」のように、ドキッとする表現が増えてきました。 矢守 台風や大雨は数日前から予報や警報が出ていることが多いですが、早めに避難する人は意外に少ないのです。残念ながら人は、自然災害に関して《過小評価》や《楽観視する傾向》が強い。避難指示や大雨警報が出ても、「まあ大丈夫だろう」と。この心理を「正常性バイアス」と言います。 紺野 そうやって自分を安心させているのかしら。 矢守 ええ。そう考えるのには根拠もあって、皆さんこれまでに無事だった経験を何度もしているからなんです。 特に高齢の方ほど、「50年この土地に住んでいて、何度も警報は出たけど、目の前の川が溢れたことはないし裏山も崩れたことがない。だから今回も大丈夫」と経験をもとに判断しがち。それは当然の思考ですし、これまではその考え方でもあまり問題はなかったのです。 紺野 たしかに、経験がものをいう判断もありそうです。 矢守 でも最近は、雨量が少なかった地域が豪雨に見舞われることが起きています。となると、50年大丈夫だった裏山が崩れるかもしれないし、川が溢れるかもしれない。もはや、「今回も大丈夫だろう」という理屈は通用しない気象状況になっている、ということです。
【関連記事】
- 防災心理学者・矢守克也 「避難して災害が起きなくても、空振りではなく、素振りと考えて。「ふだん」と「まさか」を近づける《生活防災》が大切」
- 【チェックリストで診断】あなたの災害への備えレベルは?南海トラフ、大型台風、線状降水帯…防災準備の再点検
- 【漫画】わたなべぽん 資産運用法を調べれば「もしものために」のものばかり…<テンションがあがる貯蓄>を探して辿り着いた変化球気味な方法とは
- 水の事故を防ぐためのポイント解説。「背が立つ浅さ」や「泳ぐのが得意」でも溺れてしまうことも!
- 紺野美沙子「息子の独立、母を看取り、愛犬も見送って。生活を見直すタイミングで始まった氷見と横浜の二拠点生活。断捨離してこれからはモノよりコトに」