「食品知財の黒船」花王はいかにして他社を寄せ付けない“鉄壁の特許網”を築いていったのか?
花王は食品知財の黒船であり、食品業界に知財革命を起こした企業だと言いましたが、まさに「知財革命」と呼べる大きなインパクトを食品業界に与えたんですね。先ほど軽く触れましたが、サントリーがある市場に参入するために先行特許の調査を行ったところ、花王の「パラメータ特許」によって関連特許がすべて取得されているとわかり、市場参入を断念したとされています。 当時のサントリーの知財責任者曰く、花王の特許網に衝撃を受けて、どうやってこんなにたくさんの強い特許を取得しているのか、かなり研究したそうです。そして、それがとても役に立っているとも言っていましたね。皆さんにもぜひ、食品業界を変えた花王の知財戦略について、具体的な事例で理解を深めていただきたいと思います。 ■ サントリーの市場参入を阻んだ、花王の特許戦略 サントリーの市場参入を阻んだとされる花王の「パラメータ特許」を駆使した戦略とは、いったいどういうものなんでしょうか。誤解を恐れず、できるだけわかりやすい言葉で説明すると、パラメータ特許とは「数式と数値の範囲を組み合わせた特許」のことです。言葉で説明するより具体例を見るほうがわかりやすいので、後で具体例を紹介します。 特許による参入障壁の構築は、一つひとつの特許が強いことも大事ですが、数も大事という部分があります。質と量を組み合わせ、さまざまなテクニックを駆使して隙のない特許網をどうつくり上げるか、という世界なんですね。花王は、それが非常に上手いんです。 論より証拠ということで、まずはヘルシア緑茶関連の特許である、特許3329799を見てみましょう。請求項1を以下に引用しておきます。 【特許3329799の請求項より】 【請求項1】 次の非重合体成分(A)及び(B): (A)非エピ体カテキン類 (B)エピ体カテキン類のカテキン類を溶解して含有し、それらの含有重量が容器詰めされた飲料500mL当り、 (イ)(A)+(B)=460~2500mg (ロ)(A)=160~2250mg (ハ)(A)/(B)=0.67~5.67 であり、pHが3~7である容器詰飲料。 エピ体カテキン、という専門用語が出てきますが、それは一旦置いておきます。ざっくりいうと、この特許は、AとBという2種類のカテキンについて、その含有量を権利にした特許ですね。含有量の範囲を、A+BだのA÷B(A/B)だのという数式を使って規定するものを「パラメータ特許」と呼びます。ちなみに知財業界の専門家の定義では、例えば「A」という成分の含有量を数値で規定した場合は、「数値限定特許」と呼ぶようです。数式を使うか使わないか、の違いですね。本書では、数値の範囲を限定する特許の中で、特に数式をつかうものがパラメータ特許なんだ、という定義でいきます。