「食品知財の黒船」花王はいかにして他社を寄せ付けない“鉄壁の特許網”を築いていったのか?
「特許」には企業の過去から現在に至るまでの発明・イノベーションの歴史が記されている。いずれも専門的な情報が多く、読み解くのは容易ではない。しかし、そこには企業や事業の価値、ひいては「未来」をも予測する貴重な情報が数多く示されている。本連載では『Patent Information For Victory ~「知財」から、企業の“未来”を手に入れる! ~』(楠浦崇央著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。知財力に優れた国内2社の事例を元に、特許戦略の最新事情を解説する。 本連載の前半では、ヘルスケア商品における知財戦略のパイオニア「花王」の事例を紹介。第1回は、効果的に他社の参入障壁を構築する花王の「パラメータ特許」について取り上げる。 ■ 花王 (1) 食品業界の「黒船」。 ヘルスケア商品の特許戦略とは? ■ 花王は食品業界に「知財革命」を起こした 花王についてお話しする上で、花王の特許戦略の巧みさ、特に特許の出し方と取り方についての紹介は、やはり外すことができません。食品や化学の分野で、ここまで分割出願を駆使して執拗に特許を取ってくる企業は、なかなか見当たりません。他の業界ではいくつか例はあるのですが、花王の例は非常にわかりやすいので、知財に関心がある方にはぜひ参考にしていただきたいと思っています。 あとは、やはり新規事業の話ですね。花王は「Another Kao(アナザー花王)」というキャッチフレーズを使っています。新規事業で、これまでの延長線ではない、もう一つの花王を生み出すぞ! という意思表示ですね。今後の花王はどうなるか、非常に気になります。この辺を、特許と知財から少し見ていきたいと思います。 では、花王の知財戦略、特許戦略の概要と特徴を紹介します。 実は花王は、ヘルスケア食品における知財戦略のパイオニア企業です。僕は「食品知財の黒船」と言っているのですが、新規事業という視点でも知財という視点でも、かなり業界にインパクトを与えた企業なんです。どのくらいのインパクトかというと、飲料大手のサントリーが花王の特許網に阻まれて市場参入を断念したぐらいだ、と言えばわかっていただけるでしょう。