「食品知財の黒船」花王はいかにして他社を寄せ付けない“鉄壁の特許網”を築いていったのか?
そして、花王の特許に衝撃を受けたサントリーもその後、特許で飲料業界に大きなインパクトを与える、という連鎖反応が起きました。これは、改革が起きる典型的なパターンです。業界で誰か一人、知財のレベルが上がったら、ドミノ倒しのように業界全体の知財のレベルが上がっていく。食品業界はそんな感じで知財のレベルが上がっていったんです。その起点になったのが花王です。まさに黒船です。 花王のヘルスケア食品といえば「ヘルシア※ 」と「エコナ」シリーズです。ヘルシアにはいくつかの製品ラインナップがありますが、いずれも特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品で、まさにヘルスケア食品そのもの、のブランドなんですね。花王について調べていたときに、調査の参考にするためヘルシア緑茶をしばらく飲んでいましたが、結構苦みがありました。でも、健康的な苦みというんでしょうか、飲めない苦みではないんです。後で説明しますが、このあたりの「味付け」が上手なんでしょうね。 特許を読んで、そんなふうにいろいろ勘繰りながら飲んでいました。仕事バカですね(笑)。 ※ 茶カテキン飲料「ヘルシア」については、2024年2月1日にキリンビバレッジ株式会社への事業譲渡が発表されています。 花王はもともと食品素材の会社でもあるので、ヘルシアシリーズに用いているポリフェノールを、2021年から食品素材として販売開始しています。 販売しているポリフェノールは、「茶カテキン」と「コーヒー豆由来クロロゲン酸類」の2種類なのですが、食品にするときのアドバイスもしますよ、と言っています。単に材料を売るだけでなくて、材料を食品に適用する上での課題も自分たちで解決して技術として持っていて、それも提供するんですね。いわゆる、ソリューションビジネスです。 僕たちは「イネーブラー」と呼んでいますが、カテキンという素材を世界中の食品にビルトインするために必要な知財と技術を持っていて、一括で提供することでカテキンを普及させ、顧客課題と社会課題をスピーディーに解決する、というビジネスモデルですね。 また、ヘルスケア食品の先駆けである「エコナ」シリーズは、ジアシルグリセロール(DAG)という特殊な成分を主成分にした油とその派生商品で、食用油として初のトクホ認定されたものです(現在は製造・販売を中止)。関連特許には、なかなか読みごたえがあるものがいくつもあり、特許からも先駆者としての気迫を感じることができます。