Bリーグの稼ぐ力高める「論語と算盤」 制度設計の妙、地方も満員御礼
アリーナからすべてを逆算
2019年7月、Bリーグは改革の目玉として、事業規模によるカテゴリー分けを26年から採用すると発表した。競技成績による降格の心配をなくし、クラブ自身もスポンサーも安心して事業投資が行えるようにする狙いだった。Bリーグの増田匡彦常務理事は「バスケというコンテンツがビジネスになる環境をつくることが一番の目的」と語る。クラブの収益力を高め、選手やスタッフなどの環境改善につなげる目的もある。業界として持続的に発展できる仕組みにかじを切った。 【関連画像】バスケットボールワールドカップの会場になった沖縄アリーナ(写真=前新 直人) 昇降格がない点は、NBAに似ている。大きな違いは、3つのカテゴリーが存在することだ。Bプレミアは世界、ONEは全国、NEXTはプロ水準と目指すステージが異なる。各クラブが自分たちにふさわしいと思うカテゴリーを選んで、そこに適した経営を行えるようにする。 具体的には、①入場者数②売上高③アリーナ──という基準で所属カテゴリーを判断する。中でも、「一丁目一番地としてまずアリーナがあった」と増田氏は語る。 スポーツの興行価値を高めるには、会場が地味な公共の体育館では限界があった。エンターテインメント性が高い演出や収容人数の拡大を実現させるアリーナを用意することを絶対条件とした。アリーナでのイベント誘致などが実現すれば、地域活性化にもつながる。Bリーグが目指す地域創生の観点からも不可欠と定義した。 入場者数、売上高の基準は、アリーナを軸に決めた。Bプレミアでは5000席以上のアリーナ、入場者数平均4000人以上が条件。5000席に4000人が座れば、ほぼ満席に見えて試合は盛り上がりやすいからだ。4000人×チケット単価(3000~4000円)、選手人件費(売上高の4割程度)、世界水準にふさわしい収益力などを勘案して、売上高は12億円以上と設定した。 だが、将来的にクラブの資本が充実してくれば、選手獲得のマネーゲームが再燃する懸念もある。健全経営を促し、資金力があるチームに強い選手が集中することを防ぐため、選手に支払う年俸総額の上限を原則8億円に設定。ドラフト制度も導入し、クラブ間の戦力均衡を保つ仕組みを構築した。 「2050年までに日本一のプロスポーツリーグを目指す」 6月、Bリーグの島田慎二チェアマンは5カ年の中期経営計画と、2050年のビジョンを発表した。プロスポーツリーグが中計を策定し記者会見まで開くのは珍しい。様々な事業体との協業が増える中で、「Bリーグがどのような姿を目指しているのかを開示すべきだ」(島田氏)。28年までに入場者数700万人、事業規模800億円という目標を掲げる。 目標達成に向けた戦略の一つが、海外進出だ。東南アジアを中心に試合の放映権販売を進め、フィリピンではテレビ放映も始まった。 日本の少子高齢化は待ったなしだ。海外でのファン拡大について、佐野正昭専務理事は「国内での人気を盤石にしてから、海外へ進出するのでは遅い。同時に進めていく必要がある」と強調する。今後は海外での配信の拡大を進めると同時に、インバウンド(訪日外国人)へのサービスや事業モデルの輸出なども強化していくという。 Bリーグの動きに呼応し、各クラブの経営的な取り組みが目立つようになってきた。 沖縄市を拠点とする琉球ゴールデンキングスは、協賛企業が600社を超えるBリーグ屈指の人気クラブだ(24年8月時点)。強固なチケット収入で安定した売り上げ維持を目指している。 運営会社の白木享社長は「チケットを売ることが全ての基本。その上で、スポンサー収入がついてくる」と語る。利益が確実に出るようにチケット料金は席種によって緻密に設定。アリーナでは非日常を感じられる派手な演出を行い、リピーターになってもらう工夫を重ねている。22~23シーズンの入場料収入はスポンサー収入を上回り、Bリーグ唯一の10億円超え。これは、サッカーJ1の上位クラブに匹敵する金額だ。 Bリーグのような地域密着型のスポーツにおけるクラブ経営の課題は、複数のジャンルのスポーツチームが同じ地域に拠点を置くことによるファンの食い合いだ。広島ドラゴンフライズが拠点を構える広島市には、プロ野球「広島東洋カープ」、Jリーグ「サンフレッチェ広島」が存在する。 そこでドラゴンフライズは、プロチーム同士で相互に送客する仕組みつくりに着手した。カープとは、昨季来場促進を目的としたパートナー契約を結んだ。ドラゴンフライズの試合でカープファン向けのイベントを実施した。5月のファイナルでは、サンフレッチェのホームスタジアムでパブリックビューイングも開催した。