「誤って北朝鮮領域に入る恐れも」…「GPSかく乱」に苦しむ南北境界地域の漁師たち
「財産被害はないと政府は言うが…目に見えない被害大きい」 「昨春も2万5千ウォンの羅針盤配られただけ」
「他のことはともかく、魚捕り網かごを使った操業にはGPS(全地球測位システム)が欠かせないのに、それができないから操業はオールストップだ」 10日、受話器の向こうから聞こえてくる延坪島(ヨンピョンド)の漁師、パク・テウォンさん(65)の声は憂いが満ちていた。パクさんは「今日も朝に操業に出た時、GPSが突然使えなくなった」とし、「魚捕り網かごは一度海に投げ入れておくと目では見えない。それでも網かごが見つかれば揚網(網をすくう過程)ができるが、投網(網を投げる過程)をする時は、正確な位置情報がなければ、入れておいた網かごと重なって絡まる恐れもある」と語った。 北朝鮮のGPSかく乱攻撃は、午前9時と午後3時に散発的に行われるという。パクさんは「午前9時と午後3時はすでに海に出て操業の真っ最中の時。投網と揚網を約20分ごとに繰り返しているので、GPSが1時間使えないだけでも本当に被害が大きい」と話した。 延坪島など西海(ソヘ)を中心に、北朝鮮のGPSかく乱攻撃が10日まで3日連続で続いた。合同参謀本部は前日、担当記者団に「西海地域を運航する韓国船舶と航空機は北朝鮮のGPS電波かく乱に留意してほしい」というショートメールを送った。北朝鮮は今年5月末から6月初めまで、5日連続で西海北方限界線(NLL)一帯から韓国に向けてGPS電波かく乱攻撃を行ったこともある。 GPS電波妨害攻撃は、運航をGPSに依存する小規模な船舶の操業活動に直接的な打撃を与えている。固定式刺し網漁業をするキム・ジョンヒさん(延坪島船主協会長)は「大海原でGPSなしに感だけであらかじめ設置した網を探せると思うか」とし、「政府は財産被害が発生していないと深刻ではないように言うが、目に見えない被害の方が大きい」と語った。固定式刺し網漁業とは網の中間に鉄柱を立ててワタリガニなどを捕る漁労行為をいう。 さらに、「それでも天気がよくて幸いだが、天気が良くなければ誤って北朝鮮(の領海)に入るかもしれない。今日の明け方、漁業指導船の灯りが非常に明るかったが、それも漁師たちが誤って北朝鮮(の領海)に行かないよう、位置を知らせるためのものではないか」と付け加えた。 漁師たちは、政府がまともな被害予防および補償対策を示していないと指摘する。延坪島のキム・オンソク漁村係長は「昨年春にあの騒ぎがあったにもかかわらず、渡されたのは2万5000ウォン(約2700円)の羅針盤だけ」だとし、「羅針盤ならそれより高い装備を船に備えている。恩着せがましく配っただけで、それが何の対策になるのか」と指摘した。 そのため、GPSかく乱攻撃にも政府に被害届を出さない漁師もいる。パク・テウォンさんは「被害届を出したとしても、何も変わらない。春にも操業ができず被害が生じたが、まともに(補償)してくれたことがない」と話した。 一方、科学技術情報通信部は今月1日から10日まで北朝鮮のGPS電波妨害活動による障害の通報が航空機279件、船舶52件など331件入ったが、これによる事故など被害は発生していないことが分かったと明らかにした。 イ・スンウク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )