池畑慎之介「72歳ひとり暮らし、海の見える秋谷の家を手放して、エレベーター付きの安全な終の住処を建設。新居では、ご近所さんと親しい仲に」
50年以上ひとり暮らしを続ける、おひとり様のベテラン・池畑慎之介さんは、自宅の居心地のよさをなにより大事にしているそうです。賃貸物件を転々としていた時期もありましたが、今は老後を見据え、工夫を凝らした一軒家を建て、自由なひとり暮らしを楽しんでいます(構成=内山靖子 撮影=鍋島徳恭) 【写真】体が埋もれるほど大きな赤いチェアに座る池畑さん * * * * * * * ◆階段もコンロも安全第一で 相模湾を望む、神奈川県横須賀市の佐島に新しい家を建て、3年前に引っ越しました。引っ越しを決めた理由はただひとつ。52歳のときから暮らしていた、新居と同じ三浦半島の秋谷(あきや)の家が、「階段だらけ」だったからです。 16歳で上京し、若い頃に1年間だけ同棲した経験はあるものの(笑)、それ以外は72歳になる今日までずっとひとり暮らしをしてきました。 誰かと一緒にいるほうがリラックスできるという方もいますけど、私の場合は、家でひとりきりの時間を過ごすことで自分自身をリセットできる。心身ともにくつろげて、「帰りたい」と思える家を持つことが、食べることや着飾ることより大事だと考えています。 秋谷の家も、自分で設計し、インテリアなど細部までこだわったお気に入りだったので、ここを終の住処にしようと考えていました。 ただ、リビングや屋上から海が見える眺望を優先したため、丘の斜面の土地を購入してしまったのです。必然的に、どこへ行くにも階段が必要な家になってしまって……。
カーポートに車を停めてから20段もの階段を上ってようやく玄関にたどり着き、1階に入るにはそこからまた6段、さらに螺旋階段を上って2階のリビングへ。ジャグジーを設置した屋上に出るには、2階からさらに20段ほどの螺旋階段を上らねばなりません。 この家を建てた50代の頃は元気いっぱいだったから、階段が多くても平気でしたが、この先10年、20年とひとり暮らしをすることを考えると、ここは「危険な家」になってしまうだろうなと思って。 実際、この家に住んでいる間に足首を骨折し、しばらく松葉杖を使わなければならない時期があったんです。階段の上り下りはもはや命がけ。それがきっかけとなり、もっと安全な家を建てることにしました。 残念ながら、秋谷の家の近所には新たに家を建てられる土地がなく、秋谷から少し南に下った佐島の住宅地に土地を購入。今の家を建てるにあたり「マスト」だったのが、エレベーターをつけることです。そうすればこの先、松葉杖を使うことになったり、年齢とともに体力が衰えたりしても安全に暮らせるでしょう。 とはいえ、今からエレベーターに頼っていると足腰が弱ってしまうので、積極的に階段を使っています。段の高さを低くし、踏面の幅を広めにして。万が一、足を踏み外して頭を打っても大ケガをしないように絨毯を敷き、手すりもつけました。 お風呂場にもL字形の手すりを設置。ひとり暮らしなので、入浴中に溺れても誰も助けてくれませんからね。 キッチンの調理用コンロは、安全を考えてIHにしています。ひとり暮らしで火を使うのはやっぱり怖い。IHなら、うっかり消し忘れても自動で電源が切れるので安心です。
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