池畑慎之介「72歳ひとり暮らし、海の見える秋谷の家を手放して、エレベーター付きの安全な終の住処を建設。新居では、ご近所さんと親しい仲に」
◆作りすぎた煮物はご近所さんと食べる 佐島に引っ越してきてからは、それまでの生活ではしてこなかったご近所づきあいもするようになりました。自宅があるのはアメリカの郊外のような開放的な作りの住宅地で、両隣の家との間に塀がなく、玄関の位置も対面する家と向かい合わせになっています。 おかげで、近所の方たちと自然に言葉を交わすようになって。煮物をたくさん作ったときなどは、「食べる?」と聞くと、向かいの奥さんが「食べる!」と保存容器を持ってうちまでやってくるんです。 ご近所の方と連れ立ってショッピングに出かけることもありますし、先日は家族ぐるみで初めてスシローに行きました。(笑) ひとり暮らしだと病気になったときに不安、という方もいますけど、何かあったときに助けてもらえるかもしれないという下心があって、ご近所づきあいをしているわけではありません。たまたまいい人たちばかりだったから、おつきあいを楽しんでいるだけ。 そもそも、近くに親しい人や家族がいても、面倒を見てくれるとは限らないじゃないですか。しんどいときに夫が、「チェッ、俺の飯は?」とか言ったら、そのほうがイヤでしょう?(笑)
「ひとり暮らしは寂しい」と思われがちですが、それはひとり暮らしのよさを知らないからだと思います。自分の好きな暮らしを存分に楽しむには、むしろ誰かと一緒ではできないこともある。夜中の思いつきで、キャンピングカーに乗り旅に出ても、誰も文句は言わないし。(笑) もちろん、今までずっと家族と暮らしていた方がひとりになったら寂しいだろう、というのは想像できます。だけど、最後はみんなおひとり様になるわけですから、家族と同居しているときから、ひとりで過ごすのに慣れておくに越したことはない。まずは、「1日2時間だけ秘密の時間を持つ」ことから始めるとかね。 夫に「今日はどこに行くの?」と聞かれても、「内緒」って家を出て、その2時間で映画を観てもいいし、図書館に行って本を読んでもいいし、行きたかった街をぶらぶらと散歩してもいい。 そんなふうに自分だけの時間を楽しむ練習をしておけば、実際にひとりになったとき、途方にくれずに済むのではないのでしょうか。 (構成=内山靖子、撮影=鍋島徳恭)
池畑慎之介
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