5年に1度の財政検証で判明! 誤解だらけの「年金」
――ただ、そうはいっても老後資金として年金のほかに2000万円も貯蓄しておかなければいけないということが19年に話題になりましたよね。 高橋 あれも正しくは、絶対に2000万円必要とはいえないけれども、自分のライフスタイルに応じて貯蓄をしておく必要がある、という話ですね。 当時、総務省が高齢夫婦世帯の生活を調査したところ、月々5万円程度の不足を貯蓄の取り崩しで賄っていたことがわかりました。ところが、「年金だけでは老後生活の資金が2000万円足りない」とメディアや金融機関があおり、人々に不安を与えたのです。 しかし、同じく総務省が行なった22年の家計調査によると、高齢夫婦世帯の月々の不足額は約2.2万円となっていました。これを仮に30年に延長しても約800万円です。 ――数年で1200万円も差が出たんですか? 高橋 コロナの影響で高齢者が旅行などの出費を抑えたのかもしれません。いずれにせよ、個々の暮らしぶりによって必要な貯蓄額はいかようにも変わるということでしょう。 ――年金は衣食住などの基礎的な消費を賄うための保険と考えればいいんでしょうか。 高橋 そうです。誤解されがちですが、年金は「これのみで生活できる」という趣旨の制度ではないですからね。 また、ここまでのお話はあくまでも、今のところは大丈夫、という話です。年金給付の原資は詰まるところ、現役世代の給料。仮に物価が上がり続ける一方で、人々の給料は下がり続けるような経済破綻が起きれば、当然年金制度も窮地に陥ります。 ――ほかに年金の今後を考える上で注意すべきポイントは? 高橋 賃金の伸びより年金給付の伸びを抑えて、年金給付の価値を一定に保っていく「マクロ経済スライド」が着実に行なわれるよう監視することでしょうか。 これは将来の給付水準を維持するためには必須の調整なのですが、これまでは現受給者に配慮した政治的判断で、年金給付を減らす調整が見送られるケースがありました。今後は着実に行なわれるよう、今の現役世代と受給者による相互理解が必要でしょう。 * * * 今の高齢世代と比べて給付に差があることは間違いない。でも、実際には年金は世間で言われる不安や不満のほとんどを織り込んでいるというのが実態みたいだ。センセーショナルな報道に惑わされず、今こそ年金のリアルを見つめるべきだ! ●社会保険労務士 高橋義憲(たかはし・よしのり)約25年間、銀行、証券会社に勤務。現在は年金専門の社会保険労務士として活動。個人の年金相談を受けるほか、noteなど各種メディアで年金について発信を続ける 取材・文/日野秀規 写真/時事通信社 iStock