若者の「クルマ離れ」に挑むダイハツ・コペンの2つの戦略 初のファン試乗会から
5月10日。神奈川県箱根のTOYO TIRES ターンパイクで新型コペンのファン試乗会が行われた。「新型コペン ファースト・テスト・ドライブ in HAKONE」と名付けられたこの企画は、コペンのために作られた専用ファンサイトで募集したコペン・ファンに、発売前の新型車を試乗させるという前代未聞のイベントだ。 【画像】テールデザインが大きく変わった新型コペン TOYO TIRES ターンパイクはイベントでの貸し切りができるため、ある程度リスクコントロールが可能とは言うものの、運転技術も経験も様々なユーザーに、高速コーナーを含む山道で新型車のステアリングを任せるイベントを、ましてや自動車メーカーが主催することのリスクの高さは誰が考えてもわかるはず。それを飲みこんで敢えてイベントを敢行したダイハツの意図は、果たしてどこにあるのだろうか?
キーワードは「お客様に一番近い自動車メーカー」
若者のクルマ離れが叫ばれて久しい。言葉そのものはすでに陳腐化しつつあると言ってもいいだろう。しかし、その実態は依然変わらない。「若者に訴求したい」それは耳にタコができるほど聞いてきたセリフだが、大抵は言うだけだ。金がかかる、手間がかかる。リスクがある。それを乗り越えてまで本気でやろうという人にはほぼお目にかからない。 今回のイベントのキーワードは「お客様に一番近い自動車メーカー」という言葉によく言い表されている。チーフエンジニアの藤下修氏の発言を引用すると「これまで自動車メーカーは自動車を売ってお終いだった。あとはメインテナンスだけ。機能が落ちた分を補うというか、むしろ落ちる速度を遅くすることしかしていなかった。しかしこれからはユーザーとのコミュニケーションをもっと取っていかなくてはならない」ということになる。しかし正直なところこの言葉だけでは、単なるおためごかしに聞こえなくもない。 真意が見えたのは、ファンとの質疑応答での一見無関係なやり取りからだった。参加者の一人から「あと50万円高くてもいいとしたら何をやりたかったですか?」と問われた藤下氏の答えが興味深かった。「確かに50万円あれば相当なことができます。しかし、若者のクルマ離れの原因のひとつにはクルマがどんどん高価になりブラックボックス化してきたこともあると思います。手に入り易い価格でクルマを作り、もし予算に余裕があるのであれば、ハードウェアに予算をつぎ込むばかりではなく、コミュニケーションというソフトウェアにコストをかけるという方法もあるのではないかと思います」。 エンジニアはタコつぼに籠るタイプが多い。少しでも予算が確保できるならもっとアレをこうしたい。ここをこうしたいという欲望こそがモチベーションの根幹にあるからだ。しかし藤下氏の発言は、そのエンジニアの根幹とも言える開発予算とコミュニケーションが同格で語られていたことに驚きを禁じ得なかった。ユーザーに新型車を試乗させるというリスクテイクの意味がこの言葉で解けた気がした。