前人未到の巨大洞窟へ、恐れ知らずの気候科学者の挑戦と「驚きの成果」、グリーンランド
「それはわくわくする半面、恐ろしいことでもあるかもしれません」
グリーンランドと南極は、古気候学者たちの心の中で、特別な位置を占めている。なぜなら、どちらにも何十万年も解けたことのない氷が存在し、そこから連続した気候の記録が得られるからだ。 ギャラリー:前人未踏のグリーンランドの洞窟へ 写真と図解13点 2015年7月29日、英国の古気候学者で洞窟探検家のジーナ・モーズリーとモーズリーが人生をともにするパートナーで、この記事の写真家でもあるロビー・ショーンはほかの3人のメンバーとともにデンマークの軍事基地から飛行機に乗り込み、グリーンランド北東部のセントルム湖に隣接する小さな飛行場まで飛んだ。 彼らは最終的に、それまで探検されていなかった数カ所を含む26カ所の洞窟の記録を取り、16点の洞窟生成物と呼ばれる鉱物のサンプルを集めた。そして流れ石の破片ではち切れそうなバッグを背負い、2日がかりでキャンプまで戻った。 彼らの苦労は報われた。あるサンプルの放射化学分析により、それが53万7000年~58万8000年前に形成されたことが示されたのだ。洞窟生成物の形成には、水が滴ったり流れたりすることが不可欠なため、分析されたサンプルの存在自体が、当時のグリーンランドは今よりも湿潤で温暖だったことを示唆している。 モーズリーは2018年と19年にも、さらに2組のグリーンランド遠征隊を率いて、別の洞窟群を訪れた。過酷な旅をして、洞窟生成物のコレクションを増やすごとに、彼女は時をさかのぼり、グリーンランドの古気候の詳細な記録を作り上げていった。 彼らの分析によると、2015年と19年のサンプルは、数百万年前のものだった。驚くべき結果だ。「これらのサンプルが成長した時期には、大気中の二酸化炭素濃度は、現在と同程度か、または今後数十年から数百年の間に到達すると予想されるレベルでした」と、興奮に声を高ぶらせながら、モーズリーは話す。 「サンプルの分析結果から見えてきたのは、大気の組成が現在とよく似た世界です。私たちは、そうした条件下における北極圏の気候の状態について多くを学び、地球の将来について知識を得ることができます。それはわくわくする半面、恐ろしいことでもあるかもしれません」 ※ナショナル ジオグラフィック日本版2025年1月号特集「過去と未来を結ぶ、前人未踏のグリーンランドの洞窟へ」より抜粋。
文=ユディジット・バタチャルジー