歌人・俵万智「短歌を詠みたいか、詠めるかが、心身のバロメーターに。東京、仙台、石垣島、宮崎…どこにいても詠めるというのも、短歌の魅力」
俵 若い頃の恋愛は、性と愛というか、性的な魅力と人としての魅力の区別がつかず、ごっちゃになったりするでしょう。それが若さですし。 岡本 そして年齢によっては、結婚願望というややこしいものもまじってきますよね。 俵 そうそう。不動産の物件選びみたいに、経済力などの条件も気になって(笑)。でも60代になると性は沈殿するし、条件も関係なくなる。上澄みになるんだなぁと実感しています。 冷静にお互いを見ることができる分、人としての魅力がないと続かない。やっぱりハートだよねということに気づくまで、何十年もかかっちゃった。 岡本 あっ、「上澄み」って、要はすごく澄んでいて純粋、ということですね。 俵 そうなの、そうなの! 岡本 私も今、第二歌集の準備中です。地元で暮らしていく中で気づいたことが、徐々に溜まって歌になっていくんだなと実感しているので、四万十で生まれた歌も入れたいと思っています。 俵 そうして作った歌であっても、思いや意図が100%読者に伝わるわけではない。それでいいと思っています。作者の意図とは違うものを読者に見つけてもらえたら、その歌がすごく豊かになるから。とにかく読んでくれる人を信じることが大事です。 岡本 第一歌集を読んでくださった読者からのお葉書に、「友だちを励ます言葉を探そうと思って手に取りました。でも、結局自分の言葉で会いに行こうと思いました。だからありがとう」と書いてあって。それを読んで泣きそうになりました。 俵 素敵ね。短歌を始めるには、まず言葉を信じるところから。だって1000年以上も前に詠まれたものが、今の私たちに届いているんだもの。 自分の言葉が、もし目の前の人には届かなくても、未来の誰かに届くかもしれない。その言葉の力、しぶとさを教えてくれるのも短歌だと思います。 (構成=篠藤ゆり、撮影=大河内禎)
俵万智,岡本真帆
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