歌人・俵万智「短歌を詠みたいか、詠めるかが、心身のバロメーターに。東京、仙台、石垣島、宮崎…どこにいても詠めるというのも、短歌の魅力」
◆物事の明るい面を探す 俵 短歌は、続ける面白さもあるよね。やはり20代には20代にしか見えない景色があるし、60代には60代にしか詠えない歌がある。『サラダ記念日』を読み返すと、「20代の私ってこんなだったんだ」と感じるし。作っておいてよかったなと思います。 岡本 いわば人生の軌跡みたいなものなんでしょうね。 俵 60代になると病気も身近になり、老いも感じます。でも、そのなかから「楽しいこと」「明るいこと」を見つけたい。物事を肯定的に見たいし、短歌はそのためのいい器だと思っています。 岡本 おこがましいですが、私が短歌を詠んでいくうえで意識していることと、俵さんの歌から感じることは近い気がします。私も物事のいい面を見出したいと思っているし、誰にでも伝わる平易な言葉で伝えたい。 俵 うれしい~! 失恋の歌は味わい深いから、それはそれでいいんですよ。でもそれ以外は、人生の素敵なところを歌にしたいよね。こんなイヤな奴がいたとか、言葉にして残すと、後で読み返してまた腹が立っちゃうから。(笑) 岡本 そうですね。 俵 シングルマザーとして子育てをしている時は、特にそう思っていた。大変なことばっかりだけれど、大変さを補ってあまりある素晴らしい瞬間があるので、歌にするのはそっちだなと思って詠んでいました。
◆言葉の力を信じて 岡本 確か近々、次の歌集が出るんですよね。 俵 はい。タイトルは『アボカドの種』。昨年、NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』の密着取材を受けて(23年2月放送)。スタッフが四六時中、まるで千本ノックみたいに短歌について聞いてくるんです。 そうしたらゾーンに入ったみたいな感覚になって、めちゃくちゃたくさん歌が生まれた。こんなに集中して作ったのは、初めてかも。 岡本 すご~い! 早く読みたいです! 俵 今度の歌集は、「上澄みの恋」という章をはじめ、恋の歌も多めになっています。(笑) 岡本 あっ、番組ではデート中も密着取材を受けてましたよね。 俵 そうなのよ。ボーイフレンドとディレクターがすっかり意気投合しちゃって、勝手に盛り上がってた。 岡本 取材をOKにした俵さんも彼もすごい!
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