監督キティ・グリーンにインタビュー、来週公開の映画『ロイヤルホテル』について描きたかったのは“自覚なき差別”
前作『アシスタント』から感じた、ある流れ
──『アシスタント』に続き『ロイヤルホテル』でもハラスメントに焦点を当てたのはどうしてだったのでしょう? 『アシスタント』を見たことで「ようやく職場で一番若い女性の立場がどういうものなのかがわかった」と言ってくれた人は男女問わずたくさんいました。とても主観的な映画を作ることで、登場人物と同じような立場に置かれてもらう人々のことを多くに認知してもらうやり方に手ごたえを感じ、またジュリアン・ガーナーを主演にして、同じ手法で今度はオーストラリアの中で最もワイルドで荒くれた男たちがいる場所に主人公を入れてみることにしました。 ──『アシスタント』によってポジティブな動きが生まれたわけですが、『ロイヤルホテル』に対してはどんな反響を感じていますか? 『アシスタント』は規模が小さい映画でしたが、本当にいろいろな場所で「見た」と言ってくれる人がいました。特に男性が「僕も職場の若い女性に対してああいう態度を取っているところがあったので反省した」と言ってくれたことが嬉しかった。『ロイヤルホテル』は見た男性が気まずい思いをすることはあるようなんですが、そこから自分たちの行動を改めるくらいの影響力があるのかどうかはまだわかりません。まだ公開されたばかりなので、数年後に影響を実感できるかもしれないと思っています。
──監督自身が力をもらった映画はありますか? 『アシスタント』はベルギーの映画監督シャンタル・アケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地ジャンデルマン』という、未亡人が家事を淡々とこなすルーティーンを描いた70年代の映画に強いインスピレーションを受けています。『ジャンヌ・ディエルマン~』を見た時、すごくエレガントな映画だと感じ、ハリウッド映画では描かれないような日々の淡々とした出来事が映画になるのだと感銘を受けました。こういった映画を作ることは挑戦的でプロテスタントにもなると思いました。 ──監督はキャリアの初期に『ピアノ・レッスン』や『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で知られるジェーン・カンピオン監督と仕事をしたことで女性監督としての振る舞い方のインスピレーションを受けたそうですが、その頃と比べて女性監督を取り巻く状況に変化は感じていますか? 私が映画学校を出て最初にした仕事はジェーン・カンピオン監督のドラマシリーズ『トップ・オブ・ザ・レイク ~消えた少女~』のリサーチャーでした。彼女は私をサポートしてくれ、自信を付けさせてくれました。そういった立ち振る舞いを見て、『私もああいう風になりたい』と強く思いました。ある時彼女に「女性が生きやすくなる世の中にするためにはどうしたらいいのでしょう?」と質問したら、「少しずつ変わっていくはず。だから私はできる限り女性を手助けします」というようなことを言っていました。確かにその当時と比べ、女性にもチャンスが多く与えられるようになりましたし、映画学校の女生徒の数も増えましたし、映画祭でも女性監督の作品が多く受け入れられるようになりました。私の周りでも女性の友人たちが映画を作る機会が増えましたし、大きな予算の映画を女性が監督することも増えています。私自身、若い女性を勇気づけるような映画を作ることが大切だと思っていますし、手助けする力を惜しむつもりはありません。ジェーン・カンピオンが言ったように、そういった変化はゆっくりと少しずつ起こるものだと思っています。
『ロイヤルホテル』 監督・脚本/キティ・グリーン 脚本/オスカー・レディング 出演/ジュリア・ガーナー、ジェシカ・ヘンウィック、ヒューゴ・ウィーヴィング、トビー・ウォレス、ハーバート・ノードラム 7月26日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
文:小松香里