IQ70で軽度知的障害の女性、いじめや不登校よりも「障害を受け入れることが一番難しい」 ”境界”にいるからこその苦悩
■「認めたくない」葛藤も…子どもが障害をどのように受け止められるのか?
中学生で通常学級を選択したのも、「それが当たり前だと思っていた」とえりかんさん。しかし同級生たちと学習面での差は開くばかりでした。「高校受験を控え、受験勉強をするのが一番つらかった」と言います。 「塾の先生が、数学の方程式を付きっ切りで教えてくれるんです。それでも、1ミリも解けなかった。『はぁ~』とため息をつかれて。頑張って勉強しても、30点しかとれない。学年順位もすべて出てしまう。努力しても、塾で頑張っても、偏差値は20~27ぐらいでした。障害特性もあると思うのですが、クラスから浮いていたので。生きること自体がイヤだと思っていた時期でしたね」 「それでも、中学3年生の冬までは、なんとかやり切った」とえりかんさん。普通高校に合格することができましたが、授業にまったくついていけず、学校の環境にも馴染めず、不登校に。高校1年生の10月に通信制高校に移ったことで、学校生活を楽しめるようになりました。 「最初は『高校を辞めたい。中卒でいいから』と親に話したんですが、『高校を卒業したほうがいいよ』と言われて。本来なら中卒のはずでしたが、親が通信制高校に入れてくれたので、感謝しています。今まで学校で楽しい思い出は無かったんですけど、高校では気の合う友達ができました。楽しく学校生活が送れて、性格も明るくなりました」 「これからの未来を生きていく人たちには、私のような失敗をしてほしくない」とえりかんさんは振り返ります。高校3年生のときに”軽度知的障害”の診断が下りても、「障害を受け入れるのには、長い時間がかかった。信じたくない、認めたくない気持ちがいっぱいありました」。 えりかんさんのように、成長して環境が整えられていくほど「境界知能を受け止めることがつらい」現状があります。これは「子どもにどう障害を伝えるか?」という親御さんが抱える課題にもつながります。えりかんさんは親御さんから障害について明言はされず、医師からの診断が下りるまでは濁されていたといいます。 「中学になっても定期的に児童精神科に行くので、『え、なんで?』と聞いたり。親からは、『大丈夫だって』と返され、そうなのかと。高3で診断されてから、障害を受け止めるには、ものすごい時間がかかりました。当時は、割り切れなかったけど、いまは時間をたくさんかけて、ようやく”しっくりきた”というか…。自分の周りで起こっていたことも、許せた感じです。色々…憎めないですね」 現在えりかんさんは働きながら、YouTubeやTikTokで障害について発信するインフルエンサーとして活動しています。同じ障害を持つ人、様々な特性を持つ人と知り合うことができ「世界が広がった」と話します。 「色々な人の話を聞くなかで、中学から支援クラスに入って、障害者枠の公務員で働いて上手くいっている方もいますし、特別支援学校を卒業して働いて、結婚している人もいます。支援学級や特別支援学校がすべて悪いわけじゃないことは、今になって分かりました。どんな選択をしても、日常を過ごせるんだって」 過去に戻れるならどんな選択をするか? と問うと、「早めに受け止められていたら、自分の得意な分野を伸ばすことができたかもしれない」とえりかんさん。 「あらためて、普通学級に行くなら、先生たちには特性をちゃんと伝えるのは大事だと思います。そしたら無駄に怒られることもないですし、その人にあった配慮も受けられる。得意な分野を伸ばしていくこともできた。それがあるのとないのでは、大人になった時の自己肯定感も違ってきます。自尊心を人並みに保つことができたんじゃないかと思います。 今は楽しく笑って、のほほんと生きていい。なにかの参考になればと思って、動画を発信しています。同じような悩みを抱える人がいたら、不安でいっぱいいっぱいにならないで、笑って安心して生きてほしい。そういった想いをSNSでの発信を通してみんなに届けていきたいです」