"伝説の投資家"清原達郎氏に聞く、割安成長株の見つけ方
2024年に上梓した『 わが投資術 』がベストセラーとなった“伝説のファンドマネジャー”清原達郎氏。タワー投資顧問の運用部長として長者番付1位となり、自身の投資手法を余すことなく記した著書は、今も多くの個人投資家を魅了し続けている。今回、改めて清原氏に日本株市場の現状について、また清原氏が勧める割安小型成長株の見つけ方などについて質問した。 (清原氏の過去の咽頭がん手術の影響により、文面のやりとりによる取材を行いました) ■小型株は全体ではバブルになりにくい ――2025年に株式投資を始めるとしたら、タイミングをどう見極めればいいでしょうか。 清原 100万円で個別株投資を始めるなら、小型株を10銘柄程度分散投資するのがお勧めです。1銘柄ずつ調べて買っていくなら、買う時期が分散するのでタイミングを考える必要はあまりありません。小型株は個別ではバブルになりますが、全体ではバブルになりにくい構造になっているからです。 逆に大型株はタイミングが大事です。でも、そのタイミングを個人投資家が正しく予想するのは困難です(私自身、相場の予想は外れまくります。2025年の相場は?と聞かれても当てずっぽうで言うしかありません。私が相場を当てるのは数年に1回、投資家が冷静さを失っている瞬間だけです。2024年の8月5日はその例です)。 大型株をやるなら、新NISAでのインデックスファンドの積み立て投資のほうが圧倒的に楽だと思います。相場が下がった時、自動的に買ってくれますから。積み立て投資というのは、相場が下がった時に効果を発揮するのです。だから「積み立て投資で損をしたので解約する」というのは最も愚かな行為です。 ■情報は銘柄ページと会社HPで十分 ――割安小型株を見つけるために、会社四季報オンラインをどう活用していますか。 清原 著書ではネットキャッシュ比率とPER(株価収益率)などの指標を参考に、割安小型株を絞り込む手法を紹介しました( 前回の記事 を参照)。お勧め投資のスタイルにはいろいろあり、私のスタイルはその一手法にすぎません。 株式投資で勝つためには将来を予想しなければいけません。ある出来事が起きたとき、「次は何が起きるのか」を読むのです。でもこれが「外れた」時に損することがあります。 私も若い時は「将来を読む」ことを楽しみにしていました。しかし、結果は思わしくありませんでした。でも外れた時、ネットキャッシュ比率が高い会社はほとんど損しないのです。それで年を取るにつれ、よりバリュー投資のほうに傾いてきました。そのため個人投資家で仕事の片手間に個別株投資をやられる方は、「小型株のバリュー投資」が一番だと思っています。買った後はほったらかしでいいのですから。 会社四季報オンラインで銘柄ページのコメント欄を読んで、後はワンクリックで企業のホームページに飛んで、会社の内容を見るだけで十分だと思います。ついでに同業他社のホームページも見ると、もっと深く洞察できると思います。 ただし大型株については、四季報のコメント欄を読んでも、その銘柄の投資の参考にはなりません。書いてあることは全部相場に織り込み済みだからです。ただ大型株なので、世の中がどう動いているかの参考にはなります。逆に見過ごされている人気のない小型株では、四季報のコメントが直接投資のアイデアになることがあります。大型株も小型株も四季報で割かれているスペースは同じです。四季報は小型株投資のバイブルと言えるでしょう。 ■割安株の中に成長株があれば満足すべき ――成長する企業を見極める際に大事にしていることは? 清原 著書で紹介したように、成長株を見つけるために「社長と面談する」のはとても大事です。でも必要条件ではありません。私も若い頃はできるだけ社長に会うようにしていました。でも50歳を過ぎてからは大きなポジションでなければ、社長と会うことはなくなりました。6年前に咽頭がんで声を失ってからは、社長にはほとんど会っていません。でも小型株投資の成績はまったく落ちませんでした。 だから多くの場合、四季報と会社ホームページの情報で十分なのです。そういう意味では、私の小型株投資でポジションが2億円以下の銘柄群は、個人投資家と同じ土俵に立っているのです。 私の本の書評によく「再現性がない」と書かれていますが、それは誤りです。再現性は十分あります。ただし、成長株を必死で探そうと思っても、自信のあるアイデアはなかなか見つからないでしょう。そもそも成長株の数が少なすぎ、今後さらに減少していくからです。 ですから、ひょっとしたらと思って何銘柄か買ってみて、その中にたまたま成長株があれば、満足しなければいけません。その時は早く売りすぎないことですね。3倍になる銘柄を3割上がったところで売ってしまうなら、成長株投資の意味がありません。 「成長株を見つけるのは困難」と言ってしまうとしらけますが、割安株を買って「成長株のようなリターン」を目指すのは可能です。 例を上げましょう。私は自身が運用するファンドで、数年前に田辺工業(1828)の株を30万株買いました。700円近辺で買いましたが、今の株価は1700円台で、2.3倍になりました。今のPERはまだ9倍以下、PBR(株価純資産倍率)も1倍割れ、配当利回りは4%近辺で、売る必要はまったくありません。 この会社は新潟県にあり、私が会社にコンタクトしたことは1回もありません。割安だったので目を引き、会社四季報と企業のホームページを確認して、「地味だけど堅実で技術力も多岐にわたっており、いい会社そうだ」と思って投資を始めました(私はこの会社の株を推奨はしません。私が小型株の推奨をすることはありません)。 こうした投資は、「成長株」と思われているレーザーテック(6920)を1株2万円で買って4万円で売り損ない、結局1万5000円になってしまうような投資より、よっぽどマシです。 ■REITは立派なバリュー株 ――今後伸びそうな注目業界はありますか? 清原 注目している業界はありません。ただし小型株を個別に見て、魅力的な会社を見つけると「機械セクター」が多くなるような気がします。 また私は不動産セクターに今は強気ではありませんが、REIT(不動産投資信託)は割安だと思います。金利の上昇はネガティブですが、日本で大きく上昇するとは考えづらく、多少の上昇は株価に織り込み済みです。 REITの収益は安定的です。リーマンショック時でさえ住宅の賃料はほとんど下がりませんでした(ただREITは地震保険に入ってないので、首都圏が大地震の直撃を受けるリスクはあります。まあそんなことが起きれば、他の多くの株も暴落しますが)。日本のREITは立派なバリュー株だと思います。これを新NISAで買えば配当5%丸々儲けです。夢のような話です。 ――2025年の日本株相場をどう見通しますか? 清原 最初の質問でも言いましたが、私の予想はほぼ意味がありません。「わからない」が答えです。いろいろな媒体で「新年の相場の予想」としていろいろな方のコメントが掲載されます。まったく意味のない予想ばかりなので、30年ぐらい前から読まなくなりました。 でも本当に「意味がない」ならなぜそうした予想が続いているのでしょうか。私の解釈はこうです。人々は「わからない」のが怖いのです。だから誰かに何か言ってもらって少しでも心の不安を取り除きたいのだと思います。 でも世の中はわからないことだらけです。わかったようなことを言う学者や専門家がうじゃうじゃいて、私を含め皆さんは「わかっていないこと」を「常識」だと思わされているのです。アメリカでもついこの前「長短金利が逆転」した時、CNBCのコメンテーターは全員が自信満々で「米国経済は不況に陥る。これは常識だ」と言っていました。でもそうはなりませんでした。 もう一つ、常識が嘘だらけだという証拠をお見せしましょう。テレビのドキュメンタリーなどを見ていると、「研究によって新たにこのようなことが明らかになってきました」という話、よく出てくるでしょう。でも、それまではどうだったのでしょうか?「何もわからない」わけではなかったと思います。別の説が常識として通用していたのです。つまりそれまでは、嘘を信じ込まされていたわけです。 半導体製造装置メーカーは本当に成長産業なのでしょうか? これまではそうでした。これからもそうかもしれません。でもだいぶ株価が下がってきましたから、今から売り推奨はしませんが、株価が示唆するほど成長するかどうかは一度疑ってもいいのではないでしょうか。 (構成:許斐健太) 四季報オンラインのお申し込みはこちら ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
清原 達郎