草笛光子×真矢ミキ 映画で親子役を演じて「愛情なんて大層なもの、簡単にはあげられないわよ」「いまも草笛さんのことを『お母さん』と呼びたくなってしまいます」
草笛光子さんが、作家・佐藤愛子さんの10年前を演じる――。長く愛されるエッセイ集『九十歳。何がめでたい』が映画化、6月21日に公開されます。佐藤さんのご自宅を見事に再現したセットで繰り広げられる女三世代のやりとりは、見どころのひとつ。《母》を温かく見守る真矢ミキさんの眼差しが、映画でも、この対談でも感じられます(構成:篠藤ゆり 撮影:天日恵美子) 【写真】親子役を演じた草笛さんと真矢さんのツーショット * * * * * * * ◆踊って育った3人が家族に 真矢 今日はお招きいただき、ありがとうございます。光栄です。 草笛 『九十歳。何がめでたい』で、私の娘役をやってくださったわね。 真矢 佐藤愛子さんのお嬢さん、響子さんの役でした。だから今日、久しぶりにお会いできるのが本当にうれしくて。私の娘役の藤間爽子(さわこ)ちゃんも含めた三世代が同じ家で暮らす設定だったから、2ヵ月の撮影期間に現場で生まれたファミリー感が、いまだに抜けないんですよ。いまも草笛さんのことを「お母さん」と呼びたくなってしまいますし。 草笛 私は自分のことで精一杯だったから、皆さんと話している場合じゃなかったんだけどね。(笑) 真矢 でも私たち、すぐ追いかけちゃう。やっぱり、《母》から愛情を受けた人間として存在したいじゃないですか。 草笛 そんなこと言われても、私、本当のお母さんじゃないもの。愛情なんて大層なもの、簡単にはあげられないわよ。 真矢 またまた。(笑)
草笛 そう、この感じよ(笑)。無関心だったら何も言わないもの。佐藤さんはズバズバおっしゃる方だけど、そこにはちゃんと愛情がある。それを表現したくて、私もあなたに対して言いたい放題で接したの。愛情があれば気取ったり作ったりせず、スパッとした姿勢のままで生きられる。どちらかというと、私もそういうタイプなのよ。 真矢 爽子ちゃんもサバサバした性格なので、見事なサバサバ一家でしたね。 草笛 私たち3人には、なんだか共通点みたいなものがあるじゃない。音楽が鳴ると体が動く。そこからスタートしているから。 真矢 草笛さんはSKD(松竹歌劇団)、私は宝塚歌劇団出身。爽子ちゃんは日本舞踊家・初世藤間紫さんのお孫さんで、三代目を継いでらっしゃる。踊って生きてきた3人が揃いながら、それを封印して演じている感じもまた楽しかったです。 草笛 舞台と違って、映像の仕事はそこに気をつけて演じないといけないわよね。 真矢 あははは。それ、わかります。私なんて家でも「普通にするってどういうことだっけ?」と自問すること、ありますもの。ちょっと肘をつくとか、足を組むとか、振り向くとか。(笑) 草笛 かっこよくしようと思っていなくても、ちょっとした仕草が《型》みたいに決まってしまうのよね。だからこの映画の時も、私は心を弾ませないようにしてた。弾んでしまうのが怖いのよ。 真矢 どうなってしまうんですか?(笑) 草笛 いい気になってると、つい響くような声を出しちゃったりするから。(笑)
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